電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第541回

泉谷渉の31冊目の本のタイトルは「『化学』の力で世界を変えてみせる!」


半導体、自動車などを支える合成樹脂工業協会の活躍を描く

2023/7/28

 「これは驚くべきことだ。何と経産省は、シリコンウエハーの分野で世界2番手の地位にあるSUMCOの伊万里と吉野ヶ里の2250億円を投じる新工場建設に、最大750億円を補助すると言ってのけたのだ。電子材料という分野は、これまで比較的地味な世界であったが、半導体材料については、すでに約10兆円の市場にのし上がっており、それを象徴する出来事であるとは言えるだろう」

 こう語るのは、一見静かそうに見えながらかなり熱くなるアナリスト、石野雅彦氏である。石野氏によれば、半導体の国家的支援はラピダスの北海道千歳に建設される大型工場に数兆円を投じるということで明確になったが、ここに来ては、日本勢が得意とする電子材料の分野にも及んできたとしているわけである。ちなみに、世界の半導体材料の約61%のシェアは日本企業が握っており、まさにぶっちぎりに強い分野なのである。

泉谷渉の31冊目の本は7月末に発刊される!!
泉谷渉の31冊目の本は
7月末に発刊される!!
 それはともかく、半導体一筋に約40年にわたる報道を積み重ねてきた筆者は、先ごろ、31冊目の本を執筆し、世に出すことにしたのである。その本のタイトルは、「『化学』の力で世界を変えてみせる!」というものであり、半導体、自動車、メタバースを支える底力は、日本のケミカルにあるのだ、ということを強くうたっている。(共同執筆者・津村明宏/版元は産業タイムズ社/定価5500円)

 そしてまた、この本は、合成樹脂工業協会が2023年8月に設立70周年を迎えることに際し、そのメモリアルとして書かれた本である。ここに登場する企業の皆様に多くの貴重なお話を聞かせていただいたが、とりわけ感動したのが、プラスチックのパイオニアである住友ベークライトの物語であった。

 1907年にベークランド博士が世界初のプラスチック(フェノール樹脂)を発明し、“ベークライト”と自ら名付けたのだ。その後、高峰譲吉博士の協力などもあり、1911年に日本のプラスチック産業はベークライトにより産声を上げたのである。それから112年が経ち、後身の会社となる住友ベークライトは半導体向け封止材の世界で世界トップシェアを持ち、今もひた走っているのである。

 合成樹脂工業協会のメンバーを見渡してみれば、驚くほどに100年企業として長い時代を生き抜いてきたカンパニーが多いのである。1897年に石炭採掘のための沖ノ山炭鉱組合として創業したのがUBE(旧社名/宇部興産)であり、実に創業126年目を迎えている。家電大手として世界に名を馳せたパナソニックも、2018年に創業100年を越えてきた。レゾナックは昭和電工グループと日立化成が合併してできたカンパニーであるが、そのルーツをたどっていけば、やはり100年企業の日立製作所に行きつくのである。

 三菱ケミカルは日本最大の大手総合化学メーカーであり、1934年に三菱鉱業と旭硝子の折半出資により設立されたが、その始祖まで行けば、幕末に岩崎弥太郎が作った三菱グループの存在がある。DIC(大日本インキ)も1908年の創業であり、とにもかくにも合成樹脂工業協会のメンバーは老舗企業が多く、長い年月の中で打たれ強く生き残ったのだ。

 「20年や30年の繁栄だったら、誰でも作ることができる。ただ、100年間を生き抜いてなおかつ世界トップレベルはそう簡単にできることではない」

 これは官営八幡製鉄所として出発し、鉄の歴史を創ってきた日本製鉄の幹部が、空を見上げながら言ったことではある。日本の化学産業もまた長い歴史を積み重ねながら、創業の精神を忘れず、「100年たっても、さらなる未来を切り拓くスピリッツ」を持っているのである。

 そしてまた、取材を通して強く印象に残ったことは「化学」の力で世界を変えてみせる、という不屈の精神なのだ。合成樹脂の始まりともいわれるフェノール樹脂は今も形を変え、姿を変え、進化し続けている。新たなるメタバースの時代にも貢献する技術開発に今も邁進しているのだ。

 合成樹脂工業協会の現在、過去、未来を描くことに注力したこの本は、一方で半導体、電子部品といった電子デバイス産業の現状と今後の展開、電子材料産業のトレンドなどにも取材範囲を広げ、書き進めさせていただいた。

 ちなみに、フォトレジストの分野で世界第1位にランクされるJSRに対し、産業革新投資機構が約1兆円近い金額で買い取りに出るというニュースも、とりわけ証券業界を駆け巡った昨今である。これまた電子材料という分野は、今や日本国政府にとっても実に大切なポジションを持つということの証左ではあろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索