電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第539回

合成樹脂工業協会は出版活動にも積極展開、まことに実践的なハンドブックを発刊


『半導体封止材』『エレクトロクス材料』などの本はまずオンリーワンかもしれない

2023/7/14

 合成樹脂工業協会というユニークな団体がある。これはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミドなどの合成樹脂に関わる44社が加盟する組織である。人材育成セミナー、大型の講演討論会などを主催し、その活動は単なる業界団体の域を超えており、学術的な団体としても評価されているのである。

 さて、合成樹脂工業協会は、出版活動にも注力している。これは会員企業44社の人たちを対象とするだけではなく、半導体デバイスを作る人たち、半導体製造装置の業界、さらには半導体製造現場においても読まれるほどの内容となっているのだ。

 『エレクトロニクス材料ハンドブック』は2022年に発刊されたものであるが、同業界が扱うものについて実に詳しく書き込んである。基礎編においては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、アクリル樹脂、シアネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などをきっちりと解説している。

 たとえば、エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂の一種であるが、耐熱性、接着性、電気絶縁性に優れ、電気電子をはじめ塗料、土木、接着、航空宇宙など多様な用途に用いられるのだ。この樹脂は、樹脂構造と硬化剤の種類との組み合わせによって物性が多様に変化するので、エンジニアリングプラスチックとして利用されるケースが多い。特に寸法安定性や耐水性、耐薬品性および電気絶縁性が高いことから、電子回路の基板やICパッケージの封止材として汎用的に利用されている。ちなみに、エポキシ樹脂は2022年に11万7494tが生産され、熱硬化性樹脂の中ではフェノール樹脂に次いで多い量なのである。

 まさにプラスチックの始まりとも言われたフェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を酸、あるいはアルカリを触媒とした付加反応、あるいは付加縮合反応により得られるものである。電子材料のベーシックともなるべきものであり、半導体用や液晶用フォトレジストにも応用されている。さらに半導体封止板、積層板にも用いられるという使い勝手の良さが特徴なのである。2022年の生産量は26万7024tで、熱硬化性樹脂の中では断トツの存在である。

 ポリイミドは、優れた耐熱性・機械特性・絶縁性の点から半導体素子の性能を向上させるため、40年間以上も半導体素子の製造に用いられている。1970年~1980年代頃にかけて、ポリイミドは半導体素子の多層配線の平坦化や、メモリー素子において封止材中のフィラーから発生するα線起因のソフトエラー対策として実用化された。現在ではこれらに加えて、半導体製造プロセスで、前工程と後工程のどちらにも関係する重要な材料となっているのだ。

 この『エレクトロニクス材料ハンドブック』の驚くべきことは、そうした材料を解説するだけではなく、プリント配線板の製造方法や半導体パッケージの作り方などに至るまで、事細かに書き込んであることである。これは会員各社の総力を挙げて作った本と思われるが、半導体業界の今後の方向性を占う意味でも貴重な書籍であると言えるだろう。

 『半導体封止材ハンドブック』は、2015年に発刊されたものであり、若手技術者、営業部員の教育資料、現場技術者の手引き、さらには顧客への説明資料として活用されることを目的として作られた。封止材に関する基礎的な知識のみならず、歴史、素材、取り扱い・成形方法・トラブルシューティング、封止材およびパッケージの評価方法にも言及した。作成にあたっては、封止材メーカーの投げかけにより、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリカといった原材料メーカー、成形機メーカーと各分野の専門家が集まり、仕上げたものだ。

合成樹脂工業協会はオンリーワンともいうべき本を発刊している
合成樹脂工業協会は
オンリーワンともいうべき本を発刊している
 半導体封止材は、世界の70~80%を日本メーカーが供給し、特に先端分野向けでは日本メーカーが独占している素材と言って過言ではないのだ。しかしながら、これまで封止材材料の技術全般に触れた資料はなく、これを総合的にまとめた初めての書籍としての価値は高いと言えるだろう。

 ちなみに合成樹脂工業協会にはそうそうたるメンバーが加盟している。今や半導体の後工程材料で世界チャンピオンであるばかりではなく、全ての半導体材料の世界ランキングで第3位にランクされるレゾナックが加盟しており、現在この協会の会長の任にあるのだ。また半導体封止材では世界トップをいく住友ベークライト、国内トップの化学企業である三菱ケミカル、さらにはパナソニック、UBE、ADEKA、ソマール、三井化学などの精鋭44社が集結している。同協会の今後の活動には、よくよく注目してみなければならないと切に思っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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