大手調査会社のOMDIAは、7月28～29日にFPD市場総合セミナー「第43回 ディスプレイ産業フォーラム」をバーチャル形式で開催する。FPD部材市場概況を担当するシニアアナリストの宇野匡氏に2023年に向けた注目ポイントを伺った。
―― FPD市況が厳しさを増していますね。
宇野 かなり厳しい。巣ごもり需要の反動、紛争、エネルギーコストの上昇といった問題が一気に押し寄せ、足元では「クリスマス商戦無視」といっても過言ではない調達状況となっている。年内の市況回復はきわめて難しい。
―― テレビ首位のサムスンVDが調達を大幅に絞っていると聞いています。
宇野 同社は通常なら年間5000万台（四半期あたり平均1250万台）のテレビ用パネルを調達するが、この4～6月期は月を追うごとに調達を絞った。4月には1240万台を見込んでいたが、市況が悪化した5月に880万台へ下げ、6月には820万台まで下方修正した。
需要期にあたる7～9月期は当初1510万台の調達を見込んでいたが、5月に1200万台、6月には900万台まで絞る方針に改めており、かつてない低水準になる見通しだ。
―― この背景は。
宇野 1つは北米市場の低迷だ。北米のテレビ販売は1～3月期に前年同期比21％減と大きく落ち込み、3月単月では26％減となるなど、日を追うごとに厳しさを増してきた。
2つ目に、物流の混乱が挙げられる。コロナ禍もあって港湾の荷揚げなどが昨年からずっと遅れていた関係で、テレビ各社は22年に入ってからもパネルを調達し続けてきた。だが、それがようやく届き始めたころに販売が急速に落ち込み、手元に大きな在庫を抱えることになってしまった。
―― パネル各社が稼働調整に踏み切っています。
宇野 最大の焦点は、中国パネルメーカーがどこまで稼働調整を行うかだが、6月の出荷データを見る限り、想定ほど調整していない。テレビ用パネルは昨夏から価格が下がり始め、昨年は中国パネルメーカーも一定の稼働調整を行ったため何とか市況は踏み堪えたが、今年は今のところ対応がまだバラバラだ。雇用維持などの点から稼働調整を手控えるようだと、供給過剰がさらに悪化する可能性があるため、その動向を注視している。
―― 主要部材について伺います。まずドライバーIC（DDIC）は。
宇野 パネルに連動して供給過剰に転じている。この間も発注を減らしていなかったため、パネルメーカーはすでに2カ月程度の在庫を持っている。半導体の生産キャパ不足だった過去2年半でウエハー価格が3倍、チップ価格が2倍に跳ね上がったが、この4～6月期は5～7％の下落となったもよう。7～9月期はパネルメーカーから20～30％の値下げ要望が出ており、DDICメーカーとの激しい価格交渉が継続している。
―― 有機EL用DDICも状況は同じですか。
宇野 業界内で「中抜き現象」と呼んでいるが、フレキシブルやフォルダブルのハイエンド有機EL向けと、ローエンドのアモルファス液晶向けのDDICは堅調で、ボリュームゾーンであるミドルクラスの有機EL＆液晶向けの需要が大きく減少している。
―― 光学フィルムやガラス基板については。
宇野 いまだに日本企業が高いシェアを維持しているが、円建て取引が多く、過剰な投資をしていないため、過度な心配は不要だ。確かに、偏光板の需給はかなり緩んでおり、幅広フィルム対応の新ラインを整備している中国勢は厳しいかもしれないが、日本企業が強いのはTACやPVAといった偏光板用サブフィルムであり、近年は追加投資をほとんどしいないため調整が効きやすい。現地メーカーが育ってこない限り、日本企業は安定したビジネスを継続できる。
―― 市況が悪いなかでも注目の市場は。
宇野 自動車は、引き続き1台あたりのパネル搭載台数が増えている。直近では、複数のパネルを1枚のカバーガラスで覆って大画面化する傾向が強く、このカバーガラスに合わせて光学フィルムを貼るため、フィルムサイズが大きくなってきている。
AR／VRも堅調だ。次世代ヘッドセットは、両目用に1000ppi以上の高精細パネルを2枚搭載する流れにある。メタバースの実現でB2B需要が拡大すれば、大化けする可能性があるとみている。
（聞き手・特別編集委員 津村明宏）
「第43回 ディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
https://na.eventscloud.com/43rdDisplayJapanForum²022/まで。