商業施設新聞
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第331回

(株)ワールド グループ執行役員 高橋啓介氏


会社の衰退に関わると危機感
“ロスなく”と“多様性”を両立へ

2022/5/24

(株)ワールド グループ執行役員 高橋啓介氏
 企業や消費者に一気に浸透した『サステナブル』。そうした中で、ファッションビジネスにおける大量生産・大量廃棄が問題となっている。一方、(株)ワールドのあるブランドは、WEBサイトにゴミ廃棄場の画像を大きく表示しており、危機感の強さを感じさせる。ワールドは環境配慮にどう向き合うのか。グループ執行役員で、グループ企画本部 本部長、ネオエコノミー事業本部 本部長、サスティナブル推進PJT PJTマネージャーなどを兼任する高橋啓介氏に話を聞いた。

―― ワールドは環境配慮型ブランドを含む「ネオエコノミー事業」を進めています。
 高橋 私はネオエコノミー事業本部 本部長も兼任しており、部署としてデジタルを使った新しいファッションビジネスの創造と、循環型エコノミーによるビジネスの創造を目指している。2つに分けられているが、この2つはサステナブルにつながる。例えばオリジナル社が展開する「Original Stitch」はAI採寸やオンデマンドプリンティングを実装しており、オーダーを受けて初めて生地にプリントする受注型生産。アパレルの課題である大量生産、大量廃棄につながらない。こうした事業は結果的にロスなく、無駄なくすることで会社の利益にもつながる。

―― ワールドの環境配慮型ブランドはどのようなものがありますか。
 高橋 Original Stitchのほか、リユースの「RAGTAG」、オフプライスストアの「&Bridge」、バッグをサブスクでシェアする「Laxus」などがある。

―― LaxusのHPを開くと最初にゴミ廃棄場の写真が大きく表示されます。
 高橋 我々も本気で環境配慮を意識しているということ。これまでのワールドは服を作って売るまでに目を向けていた。だが服を作ると、どう考えてもある程度の環境負荷はかかる。売った後も意識しないといけない。

―― 環境配慮型ブランドの足元の状況は。
 高橋 全体的に好調に推移している。Laxusも好調に推移しているし、2019年に事業を開始した&Bridgeは全店黒字化し、21年12月は前年同月比で100%を超えた。&Bridgeは(株)クラダシと連携して賞味期限の迫った食品なども扱っており、好評だ。オフプライスストアの一番の魅力は価格だと思うが、そこに「もったいない」という共感を得られるようになってきた。
 このほか、クリエイターとユーザーをつなぐポップアップショップとして「246st.MARKET」を複数回実施しており、これもサステナブルがテーマの一つ。「ニュウマン横浜」などに出店しており、館に賑わいを創出できると評価されている。引き合いが多く、今後も続けたい。

―― 社内での環境配慮型ブランドの位置づけは。
 高橋 成長エンジンと位置づけられているが、それ以前に環境配慮は会社が大きく成長するか、大きく衰退するかに関わっていると思う。我々の出店先の商業施設は、仕入れ先など関係各所を含めてCO2を削減する考えだ。つまり我々も削減することが求められている。それについていけないと出店余地がなくなる。消費者も環境配慮を重視しており、このまま大量生産・大量廃棄が続けば消費者に「服ってダサい」と思われかねない。すごく危機感を持っている。

―― さらなる環境配慮に向けた課題などは。
 高橋 我々が直接管轄する場、つまり工場や店舗などで出しているCO2はものすごく多いわけではないのだが、取引先を含めると相当な量になる。サプライチェーン全体で環境を配慮できる体制が必要になる。ここには課題もあり、例えば私が着ている服のボタンがどこで作られたか正確には分からず、そのため製造した工場がどれだけCO2を排出しているのか把握できない。以前、自動車業界のコンサルタントをしていたが、車の場合、ボルト1本でもどの工場で作られたか正確に分かる。ファッション業界も全体の見える化を進める必要がある。

―― 環境負荷の削減と収益の両立は難しいのでは。
 高橋 ワールドは年間3000万枚(バッグなど含む)製造しているが、これを今すぐ1500万枚に減らすのは難しい。一方、Laxus、RAGTAGで扱う商品は足しても100万枚で、まだ伸ばす余地がある。また、アパレルはビッグプレイヤーがおらず、シェアが分散している。我々の環境配慮に対する取り組みを評価していただいて、新しい顧客を取り込むことができる。
 RAGTAGなど製造しないブランドは商業施設側のCO2削減に貢献できるし、出店にもつながる。ワールドはすごくまじめな会社なので、環境配慮を進めていけば成長するチャンスになる。

―― 今後の目標、抱負を。
 高橋 ワールドという会社はある意味、アパレル会社らしくない。普通、アパレル会社として一番の目的、目標は格好いい服やオシャレな服をつくること。だがワールドは何かと「ロスなく、無駄なく」を考える。一方で我々は「ワールド」というブランドをつくったことはない。社名を冠したブランドを積極的に拡大するのでなく、一人ひとりが持つ多様性、個性を大事にしてきたということ。こうした多様な個性と、ロスなく無駄なくを両立させて、お客様に笑顔を届けたい。

(聞き手・編集長 高橋直也)
商業施設新聞2440号(2022年4月5日)(5面)
 サステナブルを探る

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