商業施設新聞
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第317回

(株)アトレ 代表取締役 社長 一ノ瀬俊郎氏


食料品が堅調、安定業績に寄与
街ごとの独自取り組みに注力

2022/2/8

(株)アトレ 代表取締役 社長 一ノ瀬俊郎氏
 JR東日本グループの駅直結商業施設を展開する(株)アトレ。コロナ禍で商業施設の運営が難しい中でも強みである食料品が堅調で、住宅立地や郊外にある施設は業績が安定している。都心の施設は厳しい時期にあるものの、テナントのES(従業員満足度)が大幅に上がる取り組みも出てきており、将来の糧となっている。直近の動向を代表取締役 社長の一ノ瀬俊郎氏に聞いた。

―― アトレの強みである食料品ですが、コロナ禍における動向は。
 一ノ瀬 食料品はコロナ禍でもさほど影響を受けておらず、2021年4~11月の数値として前々年比で99.1%、前年比で114.4%と堅調に推移している。食料品の構成比は全体の4割弱なので、コロナ禍という難しい時期でも安定して推移しているのは我々にとっても大きい。
 ただアトレは住宅に囲まれた商圏だけでなく、上野や品川などターミナル駅でも展開している。こうしたエリアのアトレは新幹線利用者などが来館者の中心だったため、食料品のウエイトが低く、厳しい状態が続く。

―― コロナ禍ではターミナル駅はどうしても難しくなってしまいます。
 一ノ瀬 住宅立地では鉄道の乗降客数が落ちても、さほど売り上げに影響しないが、品川や上野などは駅の利用者数とシンクロしてしまう。ただ厳しい中でも将来に向けた種まきが進んでいる。品川や上野にも周辺に居住者が一定数おり、こうした方に向け情報発信や商品構成の変更を進めたところ、足元商圏の売上高は2桁増となった。今後はリピーターになっていただくことも可能だ。
 また、アトレ品川では、従業員が周辺のオフィスにチラシを配りに伺ったり、電話をして店舗の情報を発信するなど本当に地道な努力をしてくれた。売り上げに大きく結びついたわけではないのだが、テナントの方に「アトレの営業部がそこまでしてくれるとは」と感じていただいたようで、ES向上につながった。これも今後の運営につながるだろう。

―― 20年末に亀戸の食料品フロアを大改装し、1年が経過しました。
 一ノ瀬 アトレ亀戸は近隣に大型SCができることもあり、強みである食品フロアをリニューアルした。結果、昨年1~12月の実績で改装前(19年1~12月)と比べて115%と大きく伸びた。
 改装では売り場の配置を大きく変えたほか、導線を変更し、集中レジにセミセルフ方式を導入した。また、クイーンズ伊勢丹を誘致し、生鮮売り場と一体的に配置するなどした。
 伸び悩んでいた生鮮が成長したことも大きい。鮮魚コーナーでは品揃えを拡充したほか、対面売り場を設けた。精肉は以前から上質なものが多かったがデイリーに使えるものが少なく、改装により両面に対応できるようにした。テナントとしては駅コンコースに続き、2店目の成城石井を導入したが、2店とも好調に推移した。

―― コロナ禍で沿線や郊外が注目されています。
 一ノ瀬 当社でも堅調な施設が多い。今後、こうした立地でさらに業績を拡大するには地元とアトレがどこまで一体化できるかが重要だ。アトレは「100の街、100の顔のアトレ」として、そのエリアにマッチした開発を目指している。この考えに基づき、その地域にこだわったイベント、仕掛けを進めており、1月には吉祥寺で地元のベーカリー店を集めた催事をした。
 こうした地元ならではのイベントはとても盛り上がる。改めて地元を愛する気持ちは強いと感じる。“地域密着”を掛け声だけではなく、本当の意味で実現するためにさらに試行錯誤していかなければならない。

―― コロナ禍前後に開業した竹芝と土浦は、今後飛躍しそうです。
 一ノ瀬 今後のSCの運営を考えた際、日用品の目的買いはECで十分になる。SCは五感、遊び心、快適性などを追求しなければならない。そうなったとき、アトレ竹芝、プレイアトレ土浦が強みを発揮する。アトレ竹芝では劇場、高級ホテル、都心部ながら水辺に面した開放的な広場がある。この広場はドラマのロケ地として貸し出したり、高級車のイベントを開催するなど、すでに場所として収益を上げている。施設内には高級レストランやパーティができるスペースもあり、コトにおける様々な可能性を感じている。
 土浦のプレイアトレではモノの販売でなく、自転車という“体験”に振り切り、星野リゾートのサイクリングホテルも導入した。プレイアトレをきっかけに土浦がサイクリングの名所であることを知った方も多いのではないか。我々が地域と組んで街を盛り上げられた事例だと思う。

―― 今後の中長期的な取り組みは。
 一ノ瀬 JR東日本グループは「Beyond Stations構想」として駅を「交通の拠点」だけでなく、ヒト・モノ・コトがつながる「暮らしのプラットフォーム」とする方針を掲げている。この構想において、アトレがある上野駅、秋葉原駅がモデル駅に選ばれた。ここにアトレとしてどう参画していくか検討中である。アトレ上野も開業から約20年経過するので、そろそろ変えていく必要がある。JR東日本とともに駅自体を変えられるような取り組みを進めていきたい。


(聞き手・編集長 高橋直也)
商業施設新聞2430号(2022年1月25日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.367

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