電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第465回

オミクロン株の拡大で一喜一憂するニッポンの姿はあり得ないこと


「同調圧力」が国民性、しかして半導体の国プロにそれを活かしてほしい!!

2022/1/14

 2022年の年明けからはじまった国内における新型コロナウイルスの再拡大は、間違いなく第6波の到来と考えてよいだろう。南アフリカからはじまったオミクロン株がまさに猛威を振るっているのである。

 日本国内における感染の経緯はやはりなんといっても外国人または外国から入ってきた人たち(日本に住所をもつ人も含む)によるものだとまずは考えられる。空港の検疫で凄まじい数が出ているのであるが、この方々を隔離したとしても無症状の人たちやその時点で感染したことが現れない人たちも数多い。そういった方々が家庭に帰り、街に出て会社に出て、または知人たちと飲み歩き、知らない間にオミクロンは広がっていく。

 コロナの断末魔ともいうべきオミクロン株はとても弱く死に絶える寸前だからして、なんとかして人に移ろうとする。それゆえに信じられないくらいの感染数を出すが、重症者は極端に少なく、死者の数はとんでもなく低い。

 ちなみに、日本国内では2021年12月31日から1月2日までの年末年始の期間において感染数は500人台を続けていたが、この3日間については連続して死者はゼロであったことを、なぜもっと大きく報道しないのだろう。テレビ局をはじめとする大手メディアはただひたすらに国民に恐怖感を与え、そのことで視聴率を上げていくことに腐心するばかりだ。そうした報道のばかばかしさに筆者は吐き気をもよおすほどだ。

 だいたいが3カ月ぶりの感染数であるとかいいつのって、このままでは日本は大パニックになるかのようなことをコメントしている評論家や専門家もかなりいるのであるが、そうした人たちはアメリカにおける感染数が1日100万人を超えていることを、なぜもっと声高に言わないのか。それでアメリカが大混乱に陥っているのか。EU諸国も1日あたり数十万人の感染者を出し爆裂的に拡大しているが、どの政府をみてもロックアウトであるとか、緊急事態宣言であるとか言っているケースはまったくない。ある国の首相は数カ月で抑えきれるとして、何もする必要はないと言っている。

 しかしながら、コロナをひたすらに抑え込んできた日本人の国民性には頭が下がるばかりだ。いまや世界中の人たちがマスクをはずしているというのに日本国内ではマスクなしの人はほぼゼロといっていいくらいだ。衛生観念が強いからであろうか。コロナに対する恐怖心が世界で一番強いお国柄なのであるのか。いやいや、そうではないだろう。

年末の浅草を歩く人たちにもマスクの「同調圧力」(中にはつけてない人もいる)
年末の浅草を歩く人たちにもマスクの「同調圧力」(中にはつけてない人もいる)
 その最大の理由は「同調圧力」であるのだ。人と違うことをしたら浮き上がる。はずれた行動をしたら社会的に抹殺される。みんなと同じようにしなければ村八分にされる。こうした考え方が蔓延しているために「同調圧力」には逆らわない、というのが日本人のもつ最大の特徴なのである。

 食堂に入って、だれかが「俺はラーメン」といえば、その隣の人も「私もラーメン」といいつのる。その隣の人もまた「そうね、ラーメンでいいよね」と言い放って、そのテーブルの人全員がラーメンになってしまう。そうした光景を見た外国人は「ありえないわ!」と驚いていた。これぞ、「同調圧力」なのである。

 それはともかく、「同調圧力」をもっと有機的に活かした方が良いと思うことがある。それは、不退転の決意ではじまった半導体の国家プロジェクトである。何しろ、国内に新増設される半導体工場については膨大な補助金を出す、しかも国籍は問わないといっているのだからとんでもないことだ。第1弾は台湾TSMCの熊本新工場、そして第2弾は米国マイクロンの東広島新工場と推測されている。そしてまた、キオクシアの岩手および四日市における新工場、ソニーが想定する長崎新工場をはじめとする九州一円の増強策などについても手厚い補助金をつけることになるだろう。

 こうした動きに対して、国民の大切な税金を半導体分野における工場建設ばかりに使うのは感心したことではないという論調も出てきている。それで実際に世界シェア8.3%まで凋落したニッポン半導体のみじめな姿を回復することができるのか、という輩もいるのである。ただし、米国が5.7兆円、中国が5兆円、EUも3兆~5兆円の半導体補助金を実行しているというのに、我が国がこれに立ち遅れたらもう取り返しがつかない。2度と浮き上がることができない。それだけの危機感をもって取り組んでいる死に物狂いの姿が見えないのはどうしたことか。

「同調圧力」王国ニッポンなのであるからして、欧米や中国さらにはインドとも歩調を合わせて、大型補助金で並びかけていくという姿勢をきっちりと貫いてもらいたいと思っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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