大型商業施設にクリニック、診療所を設置する例が増加している。商業施設でも地域貢献や公共性が重視されるようになったことに加え、土日に診療目的で商業施設に来館した客の買い回りにつながるという効果も期待される。デベロッパー、医療モール運営者の双方が関心を持っており、「モノからコトを売る時代」には欠かせない存在となりそうだ。

■イオンではモール形式
　イオンモールは、3月8日にオープンしたイオンモール春日部に内科、歯科、眼科など8科を一堂に集めた医療モール「メディモ」を設置した。各科の受付を1カ所で行う総合受付を設置し、館内の薬局で薬を受け取れるなど使い勝手の良い施設となっている。
　これまで、コンタクトレンズ店を出店する関係で、眼科を導入する商業施設は珍しくなかったが、近年は商業施設内に内科など様々なクリニックを設置するケースが増えている。
　この3～4月にオープンした商業施設で、クリニックが出店している主な施設を表に挙げた。イオンモールや駅ビルなど近隣住民が頻繁に利用する地域密着型SCが主な設置場所になっている。特にイオンモールが積極的に導入しているが、イオンモール春日部では、設置場所が1階モール西入り口から入ってすぐ、人気ファストファッション「Bershka」の隣の区画となる。また、イオンモールつくばでは眼科、歯科などのモールを抜けていくと正面にH＆Mがあるなど好立地に配置しており、デベロッパーとしても医療テナントを重要視していることがわかる。

■医療系は“コト充実”のキーテナント
　イオンモールに医療系テナント導入の訳を聞くと、館の利便性に加え、地域に求められる機能として設置しているという。イオンが推進するシニア対応路線も背景にあるというが、あくまで利便性や地域への配慮が理由だ。また、春日部、つくば、東久留米など最近は医療モールの設置が相次いでいるが、イオンとしては以前から導入を検討しており、その成果といえる。
　一方、駅ビル系をみるとボーノ相模大野、4月30日にオープンしたピオレ姫路などでクリニックを設置している。駅という生活導線上であることから、利便施設として取り入れるケースが増えているようだ。
　さらにピオレ姫路の場合は、姫路駅における商業施設全体の充実を図る意味もある。同施設を開発した神戸SC開発に話を聞くと、「ピオレ姫路の開業に合わせて、現在ある駅商業施設のプリエ姫路をピオレブランドに改称する。そうなると、ピオレで約200店を持つ大型商業施設に変貌する。様々な業種があり、さらなる業種、サービスの充実の一環として診療所を入れる」という。
　最近の商業施設は、物販だけでなく、塾、保険窓口などモノでなくコトを売るサービス店舗が増えている。クリニック・診療所もその流れにあるといえる。

■改装を機に導入検討
　では、医療テナントの設置により、商業施設全体にどのような効果をもたらすのか。ある医療モール運営会社によると、医療機関は目的性が高く、医療機関を目的に館に来る人もいるという。つまりクリニックを目的に来館して、その後商業施設内で買い物をしてもらえれば、館全体の売り上げにもつながる。
　さらに商業施設内の医療施設は、街中と違い、土日でも営業していることが多く、平日が忙しい人には、さらなる来館動機となる。
　なお、クリニック・診療所をマンションの1階や隣接する区画に設置し、入居動機につなげる場合もある。さらに商業施設に隣接するマンションに設置すると、買い物ついでに外から来た人が利用することもあるようだ。
　商業施設で増えているクリニック・診療所だが、改装を機に設置を検討する企業も多い。トヨタオートモールクリエイトは、運営するトレッサ横浜で小児科、歯科などをモール形式に設置しているが、別の施設でも医療関係のサービスを検討している。
　前述の医療モール運営会社によると、デベロッパーからの設置要望は増えており、今後も増加していくと見られる。さらにイオンモールによると、以前からクリニック側からの出店要望は複数あり、拡大する条件は整っている。
　商業施設は地域の人が集まり、いまや利益だけでなく、公共性や地域への配慮も必要とされている。東急電鉄は3月1日、10年に開業した駅を中心に構成する大型商業施設「たまプラーザテラス」に医療テナントを導入することで“街”としての機能を完成させた。今後は、医療など地域に必要な機能も商業施設に求められ、商業施設が街としての役割を担っていくといえる。