電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第5回

MHN半導体株式会社の再生計画はこれだ!!(中)


~大量生産の夢を捨て、中量多品種、高付加価値品を目指せ~

2013/2/22

 さて、海外勢もこの地域、つまりニッポンで開発された製造設備を用いている。この高性能・高精度な製造設備を支えているのが、安価となった半導体をベースとしているコンピューター、シーケンサー、計測機である。半導体産業の進化がこの地域の電子産業、半導体産業を停滞させる原因になっている。この状態が続けば、いずれ装置産業、素材産業にも影響が出てくる心配もある。

 これを逆に考えると、これだけ装置が良くなれば、それも印刷装置と考えれば、大量生産は不必要になる。

 実例を挙げよう。3D立体プリンターといわれる装置がある。十数万円からあるが、これとパソコンを組み合わせれば、従来ゴム型を使って行っていたプラスチックの成型品ができてしまう。精度や速度にもよるが、個人や小さな企業で購入できる価格の小型の装置が、射出成型では不可能な形状のプラスチック製品を作ってくれる。これは実際に印刷機である点が多いに参考となるポイントである。

 (独)産業技術総合研究所でも、ミニマルファブという0.5インチのウエハーを用いた小型の半導体製造装置を研究・開発している。この装置の一部は何社かの協力を得て商品化もされている。このサイズは若干、極端な例としても、少量・多品種への対応は半導体業界全体として遅れている分野である。

 MHN半導体社の経営の問題は、過去のDRAMのような大量生産の夢が捨てられない点にある。これから再起を目するなら、今まで不可能だとか不採算だとして事業にならなかったことを可能にし、付加価値の高い製品を作らねばならない。

 MHN半導体社は大きな企業であるから、再生といってもそう簡単な話ではない。
 まず、前提条件を挙げてみよう。

 1)3社が保有している、方式、規格の違う半導体工場が3系統ある
 2)いずれの工場も設備は旧式となっている
 3)いずれの工場も規模は小規模か中規模となっている
 4)上記の理由で従業員の配置転換が難しく、従業員も多すぎる

 これらの点はすべて「欠点」として捉えられる。しかし、発想を逆転しよう。これらの点を長所とできる製品戦略を考えればよい。最新の設備、技術、10nm単位のミクロンルールの大量生産は外注を考えよう。

 2012年、半導体販売額が最も成長した企業はもともと半導体の企業ではない。ファブレスで毎年、20%以上の成長を記録している。自社の特許、技術の優位性を生かす上での半導体販売なので、ファブレスでベスト20に入っている。大量生産なら同じように外注を考えたほうが安価となる。

 さて、これらの欠点を長所にするには;

 1)方式や規格の違う工場を有している、ということは、多くの種別の製品の製造が可能、とすれば長所となる。多品種への対応が可能という意味になる
 2)設備が旧式であれば、旧式の設備の方が作りやすい半導体を作ればよい。具体的には、動作電圧の高い製品、高電力を扱う製品が挙げられる
 3)規模が大きくない点は、やはり多種類への対応が可能という点では長所である
 4)多品種を考えれば、自動化できない作業はどうしても増える。後工程、目視検査、梱包。慣れた従業員がいてくれれば、容易になる点が多い

 これらからは、「中量・多種類」の製品の製造が向いている、となる。代表的な製品はマイコン。メモリーのサイズの違いでやたらに種類が多く、ある特定の製品の製造数量は多くないものだ。各種のドライバー、液晶、モーターを考えれば高電圧ICの需要も多々ある。
 この地域で成功している半導体の企業はないのか?も調べて参照すべきことである。

 ちょっと調べてみると、ここ数年、半導体売り上げの世界ランクが毎年上昇している企業があった。CMOSイメージ・センサーのS社である。しかし、イメージ・センサー自体は過去にすさまじい競争があった。米国、台湾、他の地域でも開発競争、価格の低減競争は激烈であった。しかし、S社は、韓国のSS社ですら対抗あるいはコピーを諦めるほどの競争力を有している。これを参考にしない手はない。筆者の見るところ競争力の源泉は2つあり、そのどちらも極めて日本的なことであった。

 開発センターが製造工場の隣にあり、設計と生産の技術者が一体となって製品開発を進めている。これこそ、この地域のお家芸。英語にもなっている「カイゼン」を行い、そこから製品のコンセプト、設計へ逆流のカイゼンを行っている点がある。同時に、生産地点を海外に移さないとしている。これは生産と開発の一体化がこの地域でしかできないからである。ちょうど、この国内工場の大幅拡張を発表している。技術で優位性に立つ良い企業のあり様となり、お手本にしない手はないと思える。

 次が、製造設備の改造である。通常、製造設備は外注からの購入である。他の企業、海外の企業が同じ設備を購入して同等の製品を作る。そして、慣れて設備の内容が分かれば、その設備をコピーして安価に、大量生産を行う。これの大失敗の例としてはシャープの液晶がある。海外に工場を移して、そこから設備も技術もコピーされた。

 このS社は購入した設備を開発技術・設計技術にも関与して改造している。もともと購入した設備の改造は以前よりこの地域では稀なことではなく、過去にはどこの工場でも行っていた。海外生産が増えてきて、海外でのメンテナンスを考えて改造を禁止した企業が多かったが、これが従業員のやる気を削ぎ、カイゼンの芽を潰し、機器改造という技術の優位性を放棄してしまった。その結果が現在の惨澹たる製造技術の喪失である。この地域でも電子部品で有名なA社は、国内工場での設備改造は許しているが、その設備を海外へ移す際はすべて元どおりにリストアしてから輸出していた。こうあって欲しいものである。

 さてS社の場合、この改造した設備を他の企業は当然入手できない。つまり韓国のSS社、他の企業が作り方のノウハウを盗もうとしても、従業員と改造設備が一体となってのノウハウであるから、盗むことは極めて困難となっている。見習うべき体制である。

 S社の例が好例であるが、昔、日本のDRAM全盛のころウエハーの加工技術が問題で、各社のベスト技術者がDRAMの製造技術へ向かっていた。半導体製造の企業である以上、独自のウエハー技術が求められる。当然、ウエハーの技術は生産エンジニアにはなかなか開発できない。基礎理論、開発・設計と製造とが協力して生み出していく技術である。米国の例であるが、ある大学の学生がCMOSロジックのプロセスを学び、FLASHメモリーのプロセスを学んだ。この2つからシリコンの面積は大きいものの、CMOSロジックのプロセスだけでFLASHメモリーを作る方法を見つけて特許を取った。このように先入観がない研究者は、既存の技術の革新を行う力があるはずである。

 対象分野、技術としては、不揮発性メモリー、MEMS、シリコン共振部、GHz-CMOS無線用、ほか多くがある。それこそ、この地域の顧客が欲している製品を開発することが大切となる。

 これを目指せば、3種類の基本が違う工場群は、3種類の独特のプロセス技術を各々開発できる可能性に振り替えることができる。どの基本技術が、どの新分野に適しているか、これを考えれば3社が1社になった意味が出てくる。

 そして、製造技術についてはS社を見習い、各工場に製造技術チームを作る。このチームはその工場の出身者を半分、残りの半分は設計技術者とする。そして今、25枚のウエハーが最低単位となっているウエハーの製造を1枚単位にできないか、2枚ならどうか、というように、少量への対応を進めることが必要とされている。今は無理に25枚を作っていて無駄な在庫が生じているが、このことから脱却でき、コストも下げられる。

 次に、生産工程の高速化の改造も必要となっている。各プロセスを見直し、加工の速度を上げることを目指して試行錯誤を行う。速度が上がれば、製造のキャパシティーも増大するし、低枚数の生産によるキャパシティーの低下も防げる。そして、さらにウエハーの単価を引き下げることを目指す。

 一見、矛盾することを両立させるのも、この地域の技術者の特徴であった。このチャレンジ魂がいまだ残っていることを期待する。
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