電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第11回

幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ


~九州の花阪組にみる中小企業の元気印~

2012/9/28

 「お元気様です!!お元気様です!!お元気様です!!」壇上に上がった男がこう連呼すれば会場もまたこれに答え、「お元気様です!!」を連発する。筆者もこれに合わせて声を張り上げるのであるが、二日酔いのときや、よこしまな思いにとらわれている時には結構つらいのだ。

「花阪組」を率いるアスカの阪和彦社長
「花阪組」を率いるアスカの阪和彦社長
 この「お元気様」を連発する男こそ、福岡県直方に本拠を構えるアスカコーポレーションの阪和彦社長である。この会社は、めっきなら何でも来いという専業企業であり、ピークで35億円を売り上げた。アスカを率いる阪和彦社長は、京セラの稲盛哲学に傾倒しており、これまで飛行機はANAを使っていたのに、すべてJALに切り替えるというほどなのだ。いつもいつも声高らかに、「お元気様です!!」と挨拶しては、アクティブに日本列島および海外を飛び回っている。

 筆者は毎年、秋口にアスカおよびそれにつながる人たちの前で、講演させていただいている。半導体産業を中心とする中小企業の方々と接することは実に楽しいが、特にアスカにつながる方々はユニークで面白いのだ。阪氏は自分につながるこうしたネットワークを花阪組と名づけているが、これは稲盛氏率いる成和塾ネットワークを中心にいわば、阪ちゃん仲間としてつながっている組織なのだ。

 九州を主体とする中小企業が団結し、各社独自の開発技術を結集し、競争力を養い、各企業を永続的に成長・発展させる仕組みを構築している。フィロソフィーは「心をベースとして経営する」「パートナーシップを重視する」「仲間のために尽くす」であり、まさに稲盛哲学を地でいくといっていいだろう。

 また、アスカおよび花阪組の顧問軍団のメンバーがすばらしい。それらは、中川剛氏(元東芝副社長)、蓑宮武夫氏(元ソニー上席常務)、濱崎暢洋氏(元ソニー九州セミコンダクタ社長)、福井淳氏(元三井ハイテック常務)などの7人を擁しており、強烈にバックアップしている。

 アスカ自体もパワーデバイス向けのめっき加工、スマートフォン向けのパラジウムめっき、LED向けのロジウムめっきなどエコデバイスを中心に最新技術を磨いている。また、これらが開花してきたことで業績は再上昇している。しかし、将来にかける夢はアスカだけのものではない。すばらしい技術を持つ九州の中小企業の仲間達が結集している、花阪組を急速発展させることだ。花阪組のモノづくりを進めていけば、アスカの売り上げも100億円の大台に乗せることも夢ではないだろう。

 最近になり、阪氏はHGAという新組織を立ち上げた。これは、花阪組の人材派遣センターともなるものだ。九州シリコンアイランドも昨今のニッポン半導体の不振を受けて、多くのリストラがなされており、技術者は九州全域にあふれている。

 「こうした技術者の海外流出を何としても避けたい。何とか九州に留めたい」(阪社長)

 この思いからHGAは立ち上げられたわけだが、いくつかの半導体企業で放出された人材の受け皿が決してないわけではない。たとえば、CMOSセンサーで好調なソニー九州は、200~300人の設計者を欲しがっているという。HGAは持てるネットワークを生かし、こうした人材のお手伝いをしていきたいというのだ。

 「つらいとき、悲しいときに支えてくれるのは、同じ悩みを共有してきた仲間たちだ。中小企業は、単独では弱いが団結すれば大きなパワーを発揮する。お互いに支えあう気持ちこそが大切なのだ」(阪社長)

 団結、支えあいなどという言葉が日常的に語られることが少なくなった。そうした時代に「お元気様」とほえまくる花阪組の人たちは、声を張り上げているときに幸せになり、自然に笑顔があふれ出すという。人間を活性化させるのは金でもモノでもないのだ。アスカ率いる花阪組は、「元気印は一人一人の胸の中にあり、それが結集できれば幸せになれる」ことを主張している。ところで、ウィリアム・ジェームスは、次のように言っている。

 「私たちは幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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