電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第8回

シェールガス革命の時代がやってくる!!


~素材系には追い風、新エネルギー系には逆風となるのか~

2012/9/7

「石油からシェールガスへ」という時代の流れが来ているのか(大竹・岩国エリアの石油コンビナート)
「石油からシェールガスへ」という時代の流れが来ているのか
(大竹・岩国エリアの石油コンビナート)
 東急東横線の祐天寺という駅に降り立つと、なぜかしら文化のにおいがする。この周辺にはかつては都立大学があり、現在も学芸大学が存在し、テニスコートにさんざめく女子大生の声も妙にさわやかな街なのだ。だいたいが東横線というのは、いわゆるプチブルが多く、上品な身なりの人が多い。横浜~渋谷までの道のりにおいても、やれ田園調布だ、自由が丘だとハイソな駅が多いのだ。

 それにくらべて筆者が横浜から東京方面に向かって毎日のように使う京浜急行は、よく言えば下町のにおい、悪く言えばかなり下品な感じがぬぐえない。沿線には川崎競馬、花月園競輪(今はない)、平和島競艇、大井競馬場と立ち並び、いわゆるギャンブル列車だ。京浜工業地帯の真っ只中を通り抜けている電車だから、キャバレー、ストリップ、飲み屋の類も集中しており、大風俗列車と言い換えてもいいかもしれない。

 それはさておき、東急祐天寺の駅の近くには、筆者が尊敬してやまない長谷川慶太郎先生がおられる。先生は、オイルショックの到来を見事に予言したことで知られており、1983年には第3回石橋湛山賞を受賞するなど、国際派エコノミストとして著名な存在だ。大阪大学工学部を卒業され、その後、筆者と同じような業界紙の記者時代を送り、証券アナリストなどを経て評論家としての地位を確立された。筆者も業界紙記者なだけに、長谷川先生にはかなりかわいがって頂いている。

 この夏の特に暑い昼下がりに、長谷川邸を訪問し、冷たいものを頂きながらしばし談論のときを持たせていただいた。いつもいつも驚かせられることであるが、長谷川先生はくだんの札付き記者である筆者に向かってこう切り出されたのだ。

 「いいかね泉谷クン、良く聞きたまえ。30年後の世界ではガソリンスタンドはすべてなくなってしまうよ。まさにシェールガスが主役の時代が到来しつつある。アメリカにとっては、エネルギー輸入国から輸出国に転じるわけだから、まさに逆転満塁サヨナラホームランともいうべきインパクトだね」

 シェールガスは、天然ガスの一種であり、泥や砂が固まってできる岩盤に閉じ込められたガスだ。米国はいちはやく採掘技術を確立し世界に先行、天然ガス供給の23%をシェールガスでまかなっている。シェールガスの世界の埋蔵量は100年分とも400年分ともいわれており、石油や石炭に取って代わる大きなエネルギー分野が眼前に開けてきたわけだ。

 北米は世界の3割以上の埋蔵量を持つといわれており、開発技術においても先行しているだけに鼻息は荒い。一番驚くべきことは、シェールガスのコストであり、実にkWh当たり6~7円という信じられない安さなのだ。一番安いという石油でさえ10円であり、太陽光の日本における買い取り価格が42円という事情を考えても、シェールガスの安さはとんでもない。おまけに、地球温暖化で問題視されるCO2も比較的出さないといわれている。

 「何しろ今やシェールガスの当面予想される発電量は、100万kWの火力発電所80基分はあるんだぜ。脱原発も充分にできる。それよりも心配なのは、風力発電、水力発電、太陽光発電といった再生可能新エネルギーのブームにシェールガスが水をかけてしまうことだ。これは早晩、問題になってくるだろう」(長谷川氏)

 たしかに、ひたすらコストが安く、CO2はあまり出さず、埋蔵量も豊富とくれば、シェールガスが次のエネルギーの主役になる、という予想もあながちウソではないだろう。

 長谷川先生によれば、シェールガス掘削の場合に一番沢山使う素材が鋼管であるという。2000mも打ち込むわけであるから、ものすごい強度を必要とするわけで、モリブデンをベースとする特殊鋼が必要であり、これを作れるのは日本のメーカーだけであると断じている。

 シェールガスブームに伴い、住友ベークライトは採掘用素材のフェノール樹脂を3割増産している。また、古川スカイはLNG運搬船向けアルミ厚板生産を2015年までに3倍にする。品質も開発技術も世界一といわれるニッポンの素材力は、シェールガス革命にも活かされていくのだ。しかし、一方で米国において、またヨーロッパにおいて多くの太陽電池メーカーが破綻していく背景には、想定外のシェールガスの急速普及の影響があるのかもしれない。

 わが国においては秋田県下でシェールガスの埋蔵が確実であることがわかった。それなら、雪よりも白く、眼がでかく、口も大きく、日本一背が高い秋田県の美人を眺めに、シェールガスの取材旅行も一考かと思い立った。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索