電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第380回

台湾のコロナウイルス対策は“お見事”というしかない


~中国情報を信用せず、TSMCの存在感も増すばかり~

2020/4/24

 新型コロナウイルスの感染拡大は、全くもって終息の方向性が見えない。世界全体の感染数は250万人を突破しており、死者も十数万人という状況であり、まさにパニックというほかない。とりわけ、米国の感染者数は60万人を超えて断トツであり、死者も膨大な数に及び、とんでもないことになっている。

 こうした状況下にあって、台湾政府のコロナウイルス対策のすばらしさを賞賛する声が世界中で巻き起こっている。4月14日の記者会見では感染者ゼロを発表しており、36日ぶりのことであった。この時点の感染確認数はトータルで393人という少なさであり、これまたサプライズと言ってよい。

 台湾政府の大臣は皆、その分野のプロであり、年功序列でなった人はほとんどいない。蔡英文総統の指導力もすばらしく、2003年にSARSクライシスを経験し、必要な法整備が整えられていたことも大きい。厚生大臣にあたる衛生福利部長の陳時中氏は、歯科医師であり、民間でのキャリアを買われて、行政府に引き上げられた。台湾におけるマスクの増産体制を進め、その輸出禁止を断行したのは、経済大臣に相当する沈英津氏であり、この人も電子工学を学んだキャリアの出身だ。政府の情報をいち早く国民に伝えるためのシステム作りを行ったのが、IT担当大臣にあたる唐鳳政氏であり、独学でプログラミングを学び、16歳で液晶ディスプレーやプロジェクターの大手、台湾明基公司の顧問になったほどの逸材だ。

 そして何よりも重要なことは、台湾政府は中国の新型コロナウイルス情報をいち早くつかんでいたことだ。何と1月下旬には中国人の入国制限を行っており、2月上旬には全面禁止に踏み切っている。蔡総統のスピード感たるや、誠にもって水際立っており、お見事というしかない。

 もう1つ重要なことは、その後中国において武漢発のウイルスが拡大していることに対し、中国政府の情報をほとんど信じていないという姿勢である。感染数も死亡者数も、そしてまた封じ込めに成功しつつあるという情報も全く信用していなかった。4月9日には米国政府が、台湾政府が早い段階で新型コロナウイルスの人から人への感染を発見していたにもかかわらず、政治を優先してこれを無視したとして、WHO(世界保健機関)を非難した。米トランプ大統領は「WHOはひたすら中国寄り」とののしり、資金拠出の一時停止を決めたほどだ。

 中国政府はすでに新型コロナウイルスは克服したとして、武漢市の解除を決めたが、市内の店舗はほとんど空いていない。そして、人通りはあまりなく、市民は外に出ようとしない。何のことはない。武漢市民そのものが、中国政府のウイルス対策、つまり封じ込めを信じておらず、感染を恐れて今も家に閉じこもっているのだ。ちなみに2020年1~3月の中国の輸出額は前年同期比13%減であり、11年ぶりの下げ幅となった。欧米の需要は急減し、工場稼働率は上がらず、大打撃を受けている。これを見ても、中国におけるウイルスの感染数や死者数はほとんど信用できない、もっとすごく多いはず、と米国のかなりのジャーナリズムが指摘しているのもうなずける。

TSMC外観
TSMC外観
 それはともかく、台湾政府のすばらしい今回の対応もあって、台湾のIT企業や半導体企業はそれほどコロナの影響を受けていない。世界最大の半導体ファンドリー企業であり、いまや半導体世界ランキング3位に躍進したTSMCは全く設備投資に対する紐を緩めていない。おそらくは2兆円近い設備投資を断行するとの声もあり、このコロナ大不況の中でひときわの存在感を見せつけている。1~7nmまでの量産プロセスを構築し、米国にどでかい新工場を建設する可能性も高まっている。

 TSMC以外の台湾半導体企業も頑張っている。ICインサイツの統計によれば、メディアテックは昨年の世界ランク12位から10位に前進し、UMCも20位に食い込んでいる。2020年第1四半期の売上高の伸びを見ても、TSMCは前年同期比42%増という驚異的な数字を叩き出しており、「コロナ、何するものぞ」という雄叫びが聞こえるようだ。

 そしてまた、日本の全産業の国内工場も80%は通常稼働しており、需要回復が見込めれば、「いつでも行くぞ」との体制を整えている。コロナの苦境下にあって、終息後は一気に台湾と日本が抜け出して来る可能性は存分にあるのだと言えよう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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