電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第371回

「ミニマルファブは素人のアイデアを半導体にできる優れものだ」


~横河ソリューションサービスの西村一知氏が語るニッポン復活の夢~

2020/2/21

 「私は常々、小・中学生が考えることを形にできる半導体を作れ、と言っている。ミニマルファブはそれを実現できる。お金がなくても、チャンスがなくても、アイデアを成果物にできる唯一の手法と言い換えてもよい。実に素晴らしいことではないか」

横河ソリューションサービス(株) エグゼクティブアドバイザー 西村一知氏
横河ソリューションサービス(株)
 エグゼクティブアドバイザー
 西村一知氏
 こう語るのは、横河ソリューションサービス(東京都武蔵野市中町2-9-32)でエグゼクティブアドバイザーを務める西村一知氏である。西村氏は、長崎県出身、県立諫早高校を出て、同志社大学に進む。1981年の同志社大学の全国大学ラグビー選手権初優勝の時のウィングでもあるのだ。その後、横河電機において様々な仕事を務めた後に、46歳にして横河電機の日本国内の営業TOPとして執行役員営業統括本部長の重職に就く。そして今、一般社団法人ミニマルファブ推進機構の監事として大活躍しておられるのだ。

 さて、ミニマルファブという概念は、実のところ1990年代後半に産業技術総合研究所の原史朗氏によって開発された、局所クリーン化技術に端を発する。しかし、それが形になっていくのは、2010年に産業技術総合研究所がミニマルファブを正式発表し、2012年に国家プロジェクトになった時からである。2016年には横河電機本社にミニマルアプリケーションラボが開設され、2017年からは多くの企業によるビジネス化が一気に加速し始めた。

 「クリーンルームには、そもそも無理がある。ゴミや汚染との闘いに明け暮れ、そしてまた、複雑な温度コントロール、湿度コントロール、ガス流量制御など、神技とも言うべき技術が必要になる。もちろん高額の製造機械を大量に投入し、かつまた、プロ中のプロであるエンジニアをいっぱい育成しなければならない。ミニマルファブはそうした半導体製造の常識を根底から覆した。クリーンルームなし、マスクなしですべてを仕上げてしまうのであるから、1つの革命的出来事だと言えるだろう」(西村氏)

 半導体を1個単位で生産することができる多品種少量生産に最適化された生産システム、それがミニマルファブなのである。微粒子とガス分子の両方を同時に遮断する局所クリーン化技術によって、クリーンルームレスを実現した。工場建設にかかる費用から生産の規模、原材料のコストや装置のサイズなどファブ全体からプロセスにわたる様々な局面で、「従来のメガファブの1000分の1」をキーワードに開発が続けられてきた。

 ミニマルファブでは、直径が0.5インチのウエハーを使用する。従来のメガファブで使用する12インチウエハーに比べれば非常に小さなサイズである。多品種少量・変量で無駄なく生産する「一個流し生産」の考え方を基本とし、市場に出回る半導体のほとんどをカバーし、作り込むための最小のサイズとも言えるのだ。

 ミニマルファブではプロセス工程ごとに1台の装置が用意されており、装置間のウエハー搬送を行うためにミニマルシャトルという専用の密閉搬送容器を使用する。要するに、ウエハーを外部環境から完全に遮断する。これにより、クリーンルームもクリーンウエアも必要としない。そしてまた、高額なマスクも全く必要としない。

 「フォトリソ、加熱、成膜、ドライ、ウエット、そして測定などあらゆる工程ごとに装置は一体化している。幅29.4cm×厚さ45cm×高さ144cmという小さな装置を二十数台並べただけで半導体ができる。セーターやTシャツ姿でも半導体が作れることは、驚き以外の何物でもない。もちろん、メガファブと異なり多品種少量生産がターゲットであるからして、アプリケーションはある程度限られる。宇宙・航空、医療・ヘルスケア、環境分野、さらには自動車などが大きなターゲットになる。とりわけ試作工程では、ミニマルファブを使い、ここで成功できれば大量生産に持ち込むというビジネスモデルが構築できる。本格生産に向けての試作プロセスがいよいよ立ち上がってきており、国内外から横河の設備を見に来る人たちが多数にわたっている」(西村氏)

 確かに、半導体を作るということは、まさにプロフェッショナルの世界であった。お金がない人にはこれまで作れなかった。そして、技術のない人には手も足も出なかった。しかして、このミニマルファブを時間割のレンタルで使えば、超低コストで全くの素人のアイデアでも自分だけの半導体が作れる。これはもしかしたら、とんでもないことだ。量産設備投資の激突する世界では、残念ながら日本は後退に次ぐ後退を強いられていった。

 「ミニマルファブを使って画期的なアイデアを半導体にしていく。小・中学生や文系のサラリーマンでも半導体を作り込む。それを応用した製品で世界と勝負できる。何という夢のある話だ。ニッポン半導体の復活は、ミニマルファブから始まるとさえ言ってよいだろう」(西村氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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