電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第299回

次世代エコカーの「燃料電池車」をにらみ、素材系の設備投資急ピッチ


~山口は再エネ利用水素ステーション、福島は大規模水素製造拠点~

2018/8/24

 一次会がはねてガヤガヤと二次会の中華料理屋に流れ込んだ時に、誰かが「僕はラーメンがいい」といえば、皆口々に同じ言葉を叫び、結局全員がラーメンになってしまう。こうした有様を見るにつけ、日本人は何と付和雷同なのかと思ってしまう。誰か一人ぐらいは違うメニューを頼めばいいのにと思いながら、「やっぱり僕もラーメン」と渋々つぶやく自分が情けなくなることもまま多いのだ。

 それはともかく、次世代エコカーを巡る日本の大手マスコミの報道は歪んでいるとしか思えない。それは一言でいえば「世界すべてがEV。ハイブリッド車や燃料電池車にこだわる日本はガラパゴス。いずれ世界に取り残され、自動車王国の日本は倒れるだろう」という主張であり、まさに盲目的にひたすらこの論調の記事を垂れ流しているのだ。大体が米国の大手であるGMやフォードはEVに加えて燃料電池車も有力なエコカーとコメントしており、決してEV一色ではないのだが、とにかく世界的なEVブームに持っていきたい日本のマスコミはコメントをデフォルメして読者に伝えてしまう。

 EUにおいても大本命は実のところEVではない。電動車という言葉を使う国が多く、実際のところは「48ボルトタイプのマイルドハイブリッド車が主流になる」と水面下では叫ばれているのだ。そしてまた、EVにひた走る中国でさえも、しっかりと燃料電池車の開発はやっていることを大手マスコミは正確には書かない。

日本発の燃料電池車はいずれ世界に全発信されてゆく!!
日本発の燃料電池車は
いずれ世界に全発信されてゆく!!
 それよりもぜひ言いたいことは、自動車の生産シェアでいえば、日本はワールドワイドの約3分の1を握り、トップシェアで突っ走っていることをなぜ記事の前面に出さないのだ。つまるところ、トップシェアを握る日本の自動車メーカーを抜きにしてEV中心の世界の潮流など作れるわけもなく、デファクトスタンダードを日本以外の国が握ることも全く考えられない。この夏の暑さも手伝って、「いったい何を書いているのだ。バカヤロー」と、今日も筆者は各紙のEV報道を読んでいる。

 本屋に行けばEV礼賛の本ばかりが並び、そのうちのいくつかは日本発の燃料電池車はもはや滅びの道とまで言い切っている。あきれてものが言えないとはこのことだ。燃料電池車でトップを行くトヨタは、本社内に巨大な開発センターを建設することになるが、ここでの基本テーマは燃料電池車であることは間違いない。

 トヨタ系列の豊田合成がここに来て三重県いなべに作る新工場は、まさに燃料電池タンクの量産設備なのである。また燃料電池向け触媒で世界トップを行く田中貴金属は、先ごろその触媒の生産能力を7倍に引き上げることを打ち出した。

 そしてホンダは燃料電池の基礎素材である水素自体を、自社で内製する取り組みを行っている。マツダは得意とするロータリーエンジンに水素エネルギーを応用しようとしている。EVと異なり多くの原発および火力発電所を必要としない燃料電池車は、いわば究極のエコカーなのだといえるわけだ。

 日本政府自体も水素エネルギー推進のための取り組みは強化しているが、安倍首相の出身地である山口県では、実にユニークな「水素先進県」を目指した取り組みが進んでいる。すなわち、長州産業は再生エネルギーを利用した小型の水素ステーションの実証施設を作り上げた。長府工産は純水素型燃料電池システムに向けた水素ボイラー搭載型貯湯ユニットを開発した。これは東芝燃料電池システムとの連携プレーによるものだ。ひびき精機は水素冷却用膨張タービン部品の開発に注力するなど、山口県下では中小企業をも巻き込み13社共同による水素プロジェクトが進んでいる。もちろんこうした動きのその先にあるのは、燃料電池車なのだ。

 福島県下においては、東日本大震災で最も大きな被害を受けた南相馬市および浪江町に世界最大級となる1万kW級の水素電解装置が設けられ、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーから水素を製造する実証実験を重ねている。さらに大規模な水素製造拠点も建設が予定され、福島産の水素を2020年の東京オリンピック・パラリンピックの際にも活用することを目指している。

 何はともあれ、水素エネルギー開発と燃料電池の実用化において世界の先頭に立っている日本の強い思い入れは、必ずや全世界に発信されていくことだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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