社会生活が大きく変わろうとしている。IoTの実用化だ。IoT社会では、膨大な数のセンサーがすべてインターネットにつながり、それらのデータ処理量が爆発的に増大していく。半導体の進化や第5世代移動通信システム(5G)などの登場で劇的な変化が予想されるなか、太陽誘電は電子部品とソリューション提案による新規事業の創出で変化に対応し、さらなる成長を目指す。需給が逼迫している積層セラミックコンデンサー(MLCC)、5GをにらむFBAR/SAWフィルターや積層セラミックフィルター、さらにはIoT市場に向けたセンサーも急ピッチで開発推進中だ。2020年まであと2年。太陽誘電が描く事業戦略のビジョンを代表取締役社長の登坂正一氏に伺った。
―― データ処理量が増大しています。
登坂 IoTの進展に伴い、クラウド側ではデータセンターを主軸に、エッジ側ではスマートフォン(スマホ)などモバイル端末を中心に、ともにデータ処理量は拡大傾向にある。また、クラウドとエッジを中継する基地局など情報通信インフラも含め、データ処理量の増大は想定以上だ。当然、メモリーやMPUなどロジックICの搭載数も増加する。デカップリング(半導体駆動のための最適電力供給とノイズ除去)を担うMLCCの搭載数は、LSI1個あたり複数個。需給は逼迫状況にある。18年もこの傾向は継続するだろう。
―― さらに小型・大容量を追求しますね。
登坂 MLCCの需要は多様化している。スマホなどのモバイル端末では小型・大容量化が進んでいる。一方で、車載や産業機器用途は大容量化に加え、高電圧化が求められている。そのため必然的に大型サイズの需要が拡大中だ。
―― MLCCの用途別サイズと容量は。
登坂 スマホ用途では1005サイズから0603サイズが主流で、最近では0402サイズを求めるユーザーも増えつつある。さらなる小型化対策として、0201サイズの量産ライン構築もすでに完了済みである。一方、車載・産機用途は1608サイズ以上が活況だ。静電容量も10~100μFの大容量かつ高耐圧の需要が強い。さらなる大容量帯の100~470μFも本格的に動き出している。
―― 車載向けの技術トレンドは。
登坂 車載向けでは、従来は半導体の性能も低く、1μFの容量帯が求められていたが、最近は半導体も高性能化が進み、10μF以上に需要がシフトしている。今後のニーズが100μFに向かっているのは歴然だ。搭載されるMPUのデータ処理量や処理スピードが急速にアップしている。
―― MLCC需給逼迫の背景は。
登坂 従来は半導体の高性能化に合わせて、MLCCの小型・大容量化で生産性を向上し、数量増加に対応することができた。しかし昨今、車載・産機向けには大容量化に加えて高信頼性が求められ、製品サイズが大型化している。そのため、需要の増加に対して生産数量が追いつかない状況が生まれている。
―― 新潟太陽誘電(株)(新潟県上越市)に第3号棟を建設します。
登坂 第3号棟には約100億円を投資する。建築面積で約1.5万m²、延べ床にして約2.6万m²規模になる。4月の着工で、年内12月の竣工を予定している。16年3月から稼働させた第2号棟とほぼ同等の建屋だが、第3号棟の生産設備は最新鋭を導入し、生産能力を大きく引き上げる。それでも需給逼迫は解消しないだろう。市況に合わせて、次の投資も考えていかなければならない。
―― その他のMLCC工場の役割は。
登坂 玉村工場(群馬県佐波郡)は開発が主体で、最先端部品を少量多品種生産する。玉村工場での開発品に対し、新潟太陽誘電は需要が大きいボリュームゾーンの量産を行う工場だ。ここで生産ラインの効率や生産性改善などが一定水準に達したものは、順次海外の生産拠点に移管する。
―― 通信デバイス事業は。
登坂 FBAR/SAWフィルターともに、キャリアアグリゲーション(CA)対応端末の増加など、今後も台数成長以上に伸びるだろう。さらに今後は、5Gなど新しい通信規格もスタートする。5~6GHz帯やミリ波帯などさらなる高周波化が進み、積層セラミックフィルターの搭載も浮上してくるだろう。
―― FBAR/SAWフィルター開発の焦点は。
登坂 特性を維持したまま小型化することだ。一般的に小型化すれば、効率が落ち、熱などの問題も出てくる。特性を維持しつつ、かつ小型化も実現できるメーカーが競争に勝つ。モジュール技術や複合技術なども駆使し、当社は18年度内に小型商品を完成させる。
―― またスマホでのフィルター競争が激化するのでしょうか。
登坂 通信デバイスはスマホ以外のアプリにも挑む。高信頼性が要求されるM2MやV2Xの世界だ。この領域へのチャレンジを可能にするのが、耐熱性にも優れた当社の堅牢なパッケージング技術だ。スマホ用途はより小型化を、M2M/V2X用途はさらなる高信頼性を追求し、2つのニーズを同時に満たして両市場を攻略していく。
―― センサー戦略はいかがでしょうか。
登坂 当社のセンサー開発は、MLCCや通信デバイスで長年培ってきた材料技術やプロセス技術を延長したものだ。開発にあたっては、人とのインターフェースを徹底追求することをメーンテーマとしている。匂いセンサーや圧電圧力波センサーなどをラインアップする。とりわけ注力しているのが匂いセンサー。振動する圧電薄膜上に匂い物質を付着させ、振動周波数の変化を解析する。現在、人間の嗅覚レベルまで到達した。今後は感度をさらに引き上げ、犬の嗅覚レベルにまで近づける。医療用途やガス検知としての安全管理など、アプリ展開が大きく拡大する。
―― その他には。
登坂 MRLD(メモリーベースド・リコンフィギュラブル・ロジック・デバイス)も有効活用したい。MRLDはFPGAと比較し、より低消費電力かつ高速駆動で優位性を持つ。センサーとともに組み込み、市場に投入する計画だ。
―― 部品内蔵配線板「EOMIN」の展開は。
登坂 これまではスマホ用カメラ市場に投入してきた。今後の展開としては、基地局など産機向けに注力する。EOMINの特徴である高い放熱性などを活かし、市場実績を作っていきたい。
―― 設備投資計画は。
登坂 15~17年度の3年間で総額1000億円を投じてきた。次年度からの3年間、また1000億円の投資を計画する。
―― 今後の市況の動きはどうでしょうか。
登坂 20年までに様々なIoT機器やサービスがその姿を見せるだろう。当然、データ処理量は格段に増大する。当社はこの増大する情報量に応える電子部品商品群を確実に提供していく供給責任がある。これをビジネス使命とし、その準備を精力的に推進していく方針だ。
―― 20年まであと2年、取り組むべき課題は。
登坂 生産効率や事業効率の改善、そのためのベースとなる人材教育が課題である。そのためには、現場や人材の見える化が欠かせない。当社は、十数年前から生産ライン/設備の見える化に取り組んできた。しかし、これだけでは不十分。個人の持つ能力や技術力、ユーザーニーズまでも抽出し、それらを体系化した人/情報の見える化が不可欠だ。それを生産ライン/設備の見える化とシンクロさせることで、20年以降のビジネスミッションを遂行できる。
そこで、電子部品事業本部長をリーダーとする推進プロジェクトを立ち上げた。同プロジェクトには品質保証部および各生産工場のライン/プロセス担当エンジニアも参画させた。さらに、顧客ニーズを吸い上げるため、営業部門の見える化にも着手している。生産ライン/設備の見える化と営業情報の見える化も連動させることで、生産数量から品質・信頼性に至るまで、市場ニーズに確実に応えることのできる体制が構築される。3年以内に完了させる計画だ。
(聞き手・松下晋司記者)
(本紙2018年2月22日号1面 掲載)