電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第254回

「営業本部なし!営業取締役なし!!それでも売れるものを作る」


~熊本県下製造業で唯一の一部上場企業 “平田機工”を率いるトップの言葉~

2017/10/6

平田機工 代表取締役社長 平田雄一郎氏
平田機工 代表取締役社長 平田雄一郎氏
 「父や祖父は常々こう言っていた。営業をしなくても、お客様が欲しいと思う商品を作れる技術力が大切。私はこの教えをひたすら守ってきた。我が社には営業本部がなく、営業担当の取締役もいない。それでもお客様に付加価値の高い商品を作れば必ず世界中から当社にお客様は集まり商品は売れる」

 淡々と静かではあるが、きっちりした口調で語るこの人こそ、熊本県下に本社を置く製造業で唯一の一部上場を果たした平田機工の代表取締役社長の平田雄一郎氏である。平田社長は新年の社員に対するメッセージでも「まず第一に社員の生活を守りたい」と力説する人であり、平田機工はこれまで一人のリストラも実行していない。

 ここにきて平田機工の売り上げは跳ね上がっている。2016年3月期はグループ全体で530億円、17年3月期は一気に805億円に乗せ、18年3月期についても900億円の売り上げを予想している。ちなみに今期の第1四半期については前年同期比78.8%増の259億円の売り上げを達成し、営業利益は同倍増以上の31億円を上げ、株式市場を驚かせている。週刊東洋経済の伸び率ランキングでは何と第1位になっているのだ。

 「ありがたいことに有機EL蒸着装置を中心に半導体関連生産設備事業が大幅増収となった。さらに自動車関連生産設備事業においても北米メーカー向けのパワートレイン関連設備、電気自動車(EV)メーカーへの売り上げが寄与し大幅増収となった」(平田社長)

 同社の売上高構成比率を見れば、実にバランスの取れた事業展開をしていることがよく分かる。18年3月期の第1四半期でいえば、自動車向け41.4%、半導体/FPD向け38.1%、家電向け15.6%、その他4.9%となっている。経済市況のアップダウンに対応する多角化を行う一方で、高付加価値に徹底シフトすることで利益率を引き上げているのだ。

 「熊本地震ではメーン工場の電線が切れて火の手が上がった。しかして、従業員たちは、協力してたちまちのうちに消火してしまった。機械もすべて止まり、電源も落ちてしまった。ところが1000人のエンジニアを擁する我が社は何と半日もかからないうちにすべてを復旧してしまった。ああ、平田ってすごいな。平田のモノづくりって本当にすごい、と思った瞬間であった」

 社長自らが社員たちの技術力、団結力を絶賛するケースは少ないのであるが、平田社長はけれん味もなくこう言ってのけるのだ。社員全員を家族と思い、徹底的に守り抜く平田機工の社風があってこそのミラクルな出来事であったのだろう。

 「従業員を自殺という最悪の状態に追い込んだ企業のようなことは社長として絶対に耐えられない。仕事を失っても、会社の利益を失っても、従業員の命は絶対に失いたくない。守りたい。だから社長命令として長時間残業はするな!と発破をかけている」(平田社長)

 今の日本の会社でここまで言い切る経営者は数少ないだろう。平田社長の経営の舵取りはこうした従業員重視ばかりではない。数年前には国内販売比率が40%以上あったものが、直近では5%まで落ちた。つまりは、今や海外向け受注が95%を占める会社になっている。世界No.1の掃除機を作るダイソン、EVの世界トップメーカー、有機EL製造装置で断トツチャンピオンのキャノントッキ、こうした一流メーカーに選ばれる技術を持っているからこそ、生産性が上がり、営業本部なしでも顧客が訪れてくるカンパニーとなったのだ。

 「本社工場の老朽化も進んでいることから、70億円を投じ、延べ2000m²の新工場建設を決め、年内には着工したいと思っている。この新工場は私と社員たちの夢を乗せた工場になると固く信じている」(平田社長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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