電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第252回

「何か困ったことはないか」 ~ユーザーの声で作りあげるビジネスモデル


~四国香川の高松帝酸が主催するテクノポリス2017は31年目

2017/9/22

 ITバブルの余韻がまだ残っていた2001年、香川県が主催する「香川テクノフェア2001」は四国地区最大のショーを謳い文句に動員3万人以上を誇っていた。しかして、その後の景気後退の波、国内エレクトロニクスの海外移転などの事情により、このイベントは開催することができなくなった。

 「そこで我が高松帝酸は、県に代わる主催者として“テクノポリス”へと名称を変更し、展示会なしのカンファレンスに切り替え、このイベントを継続してきた。一番初めの香川県先端技術展が1986年であったから、実に31年目に突入したことになる。しかして、このイベントは我が社の業績拡大に寄与しただけではなく、四国一円の企業の語らいの場として多く活用されてきたように思う」

 こう語るのは高松帝酸にあって代表取締役社長として陣頭指揮を執る太田賀久氏である。同社は今や四国No.1のガスカンパニーとして知られるだけではなく、多くの会社の四国総代理店となっており、コーディネーターとしての存在感も大きいのだ。17年12月期の年商は前期比10%増の120億円を予想、IT関連が順調であり、ここにきて医療関連も良い伸びを示してきている。

高松帝酸の太田社長(右)と谷口専務(左)
高松帝酸の太田社長(右)と谷口専務(左)
 「高松帝酸は香川県先端技術展には2回目から出展した。1987年のことであった。このまま決まったパイの中でガス屋だけを続けていても先行きはない。伸びていく市場は何かと考えた時に半導体、プリント基板などのエレクトロニクス産業が目に入ってきた。何とかこの分野に参入できないかと考え、営業開発部を新設した。初年度の売り上げはゼロでもいいと宣言した」(太田氏)

 若手の谷口裕二氏(現在は取締役専務執行役員)は、この営業開発部の実行スタッフであった。東京の大型展示会などに出かけては、エレクトロニクス関連、環境関連などのチラシをかき集め、とにかく勉強したという。そして実際のところは何が何だか分からないままにひたすら顧客まわりを続けたのだ。

 「『何か困ったことはないですか』と話しかけ、多くの顧客まわりを続けた。結果として切実なユーザーの声が聞こえてきた。ガス屋としてまわっていたのだが、専用のはんだごてはないか、拡大鏡や顕微鏡を調達できないか、静電気対策のクリーンルームを作りたい、などユーザーさんの声に答えるべく調達を続けた結果、本来のガス供給以外のビジネスが立ち上がっていくことを実感した」(谷口氏)

 そうこうするうちに、京都の大手である島津製作所から四国一円の総代理店を引き受けてくれ、との話が舞い込んできた。大阪のダイヘン、東京のタムラ製作所などからも同様の話がやってきた。はんだ洗浄にはフロン113が必要であったが、これを四国で取り扱う企業はなく、チャンスとばかりにこの取り扱いルートを築いていくのだ。

 「営業開発部の仕事は当初なかなか社内に理解してもらえなかった。若僧はガスボンベをころがしトラックに乗って走り回ればよい。おまえらは何をやっているんだ、という目で見られた。実際に初年度は売り上げゼロであった。しかし、まだ社長になっていなかった太田賀久氏の励ましの声にがんばろうという気持ちになった」(谷口氏)

 2~3年が経つと、ユーザーニーズの掘り起こしは着実な成果を見せ始めた。なぜなら、多くの企業が四国は小さい市場であるから支店や営業所を作る必要はないが、代理店としてカバーしてくれる存在を探していた。高松帝酸のこうした営業開発活動はそうした企業たちのニーズに合致したのだ。

 「今思えば、ずいぶんの無茶ぶりをやったものだと思う。しかし谷口くんなどの若手諸君はよく私の提案についてきてくれた。結果として高松帝酸は常に新しい分野に踏み込むことができた。サンメッセ香川で毎年開催されるテクノポリス2017は、私たちのお客様に最新情報を提供できる場として重要であり、これからも続けていく」(太田氏)

 「とにかくユーザーの声を拾え」「何か困ったことはないですか」という路線で拡大する高松帝酸の闘いはまだ続いている。そしてその闘いは、四国のように市場が拡大しないエリアにあっても勝つ方法はある、という重要なメッセージを全国に発信していくことにもつながるのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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