電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第248回

「東芝再建」はフラッシュメモリー売却なしで達成という衝撃シナリオ


~今期営業利益5000億円行けばウルトラ離れ業あり!!~

2017/8/25

 若い頃のことだが、それこその不思議空間の中で野外劇を見たことがある。横浜・大倉山の西洋風建物の前にひらけるガーデンの中で見たそれは、あまりにも妖しかった。そして、あまりにも美しかった。出しものは「真夏の夜の夢」、さようシェークスピアの代表作の1つである。

 そして今、2017年の暑い夏の季節、筆者は東芝の連結決算書をながめながらうなり続けている。東芝の17年3月期の連結売上高は前期比6%減の4兆8707億円。最終損失は9656億円。これはかつてリーマンショックの折に日立製作所が出した8000億円の赤字を上回り、明治維新以来、約150年間で日本の企業が出した赤字の最高記録となるものである。

 しかして、筆者が目に留めているのは、この分かりきった膨大な赤字ではない。17年4~6月の連結業績の方である。売上高は前年同期比8%増の1兆1436億円、そして何と営業利益は同約6倍の967億円をあげたのだ。ひとえにフラッシュメモリー事業が国内外で伸びたことが貢献している。そして、このペースが18年3月期まで続けば、どういうことになるのか。

 「真夏の夜の夢」ではないが、筆者の脳裏にとんでもないシナリオが浮かんでくるのだ。フラッシュメモリーは全世界で超品不足であり、価格も上昇しており、このまま行けば東芝の営業利益は5000億円近くに達するということも充分に考えられるのだ。

 そうなれば、「虎の子のフラッシュメモリー売却以外に債務超過を解消できる方法なし」という、これまでのシナリオが崩れてくる。つまりは、フラッシュメモリーを残存させたままで、上場廃止をまぬがれるというウルトラ離れ業も考えられるからだ。

 東芝の電子デバイス事業は約1兆6500億円、このうちフラッシュメモリーは約1兆円を占めると見られる。残りはハードディスク4500億円、パワーデバイスを中心とする非メモリーの半導体部門が2500億円。誰もが考えることは、とにかくフラッシュを売却してこの苦況を一刻も早く脱するということだろう。

 ところが、である。もし、フラッシュメモリーでなくハードディスクおよびパワーなどの他の半導体部門を売却したとしたら、4000億~5000億円の調達は可能になる。しかも、18年3月期の営業利益がフラッシュの大爆発により5000億円まで行けば、最も問題となる債務超過5529億円を解消できる可能性も出てくるのだ。つまりは、世界が注目する「東芝メモリ」の売却なしで再建への道筋をつけられることになる。

何かと話題の東芝四日市工場
何かと話題の東芝四日市工場
 仮にハードディスク、パワー半導体などの売却がうまくいかなかったとしても、産業革新機構をコアとする政府系が5000億円程度を出資するだけで、突破口が見えてくる。こうなれば、もう1つの問題となっているウエスタンデジタルの訴訟問題にも結着がつくのだ。土台が東芝メモリを売却しない!のであるからして、ウエスタンデジタルがイチャモンをつける理由が全くなくなる。

 そんな夢のようなシナリオ、もしくは妄想を心の中に描いていたら、半導体事業部門の売却が間に合わない場合は新たな資本増強もありうるとの考えが政府の間で検討されていることが分かった。それどころか、東芝はここに来てメモリー部門を新規株式公開(IPO)する検討も開始したという。何と東芝本体を上場廃止にさせても、半導体メモリーで生き残るという新シナリオも想定され始めたのだ。

 いやいや決して、これは「真夏の夜の夢」ではなく、日本国民は四回転半ひねりのウルトラCというべきミラクルステージを見ることができるのかもしれない。そんなことを考えていたら、ものすごい汗が噴き出してきた。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索