電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第247回

東京オリンピックに向けて時差Biz、無電柱化など推進


~燃料電池バス導入で選手村を往復し省エネを世界に発信~

2017/8/18

 先の東京都議会選挙において都民ファーストの会が50人の候補者を立て、49人が当選するというサプライズが巻き起こった。しかも、当選者49人のうち17人が女性であった。この結果として都議会議員の構成は都民ファーストの会が第1党を取り、第2党は公明党、そして哀れなことに自民党は第3党に転落したのだ。

 「東京大改革」を掲げ、都民ファーストの会を立ち上げた東京都知事、小池百合子氏のパワーは一気に噴き上げるマグマのようなものであった。この時「やっぱし女は恐ろしい」とうめいていた中高年サラリーマンの声を多く聞いたものだ。筆者もまた、迫りくるウーマンパワーには情けないほど屈するタイプであり、「何にも言えねえ」との感想を述べるだけにとどまった。

 しかして、小池氏が掲げる政策は、「どこかの誰かの利益を求めない」という都民目線であり、情報公開の徹底と賢い支出を訴える姿勢は、圧倒的な東京都民の共感を得たのだといえよう。

 筆者は先ごろ時事通信社が主催する会食会に招かれたが、その折に小池知事が長時間にわたって講演をされた。その時の談話である。

 「私は環境大臣の時にクールビズを提案し、あっという間に定着しました。意識改革を図れば世界は変わるのです。今回の東京オリンピックについても、時差Biz(ビズ)を提案したいと思います。朝が変われば毎日が変わるのよ」

東京都知事選に立候補した頃の小池百合子氏が持つ不思議な魔力
東京都知事選に立候補した頃の
小池百合子氏が持つ不思議な魔力
 小池氏は1952(昭和27)年に兵庫県に生まれ、テレビ番組のワールドビジネスサテライトの初代キャスターで知名度を上げた。25年前のことである。92年に参議院議員に初当選し、その後環境大臣、防衛大臣、さらには自民党総務会長にまで上りつめた。2016年7月に東京都知事に立候補し、圧倒的勝利を収め、さらにその勢いを駆って都民ファーストの会を立ち上げ、時の政権政党である自民党を慌てふためかせているのだ。

 「時差Bizは働く人にも企業にもメリットがあります。通勤ラッシュを緩和し、朝夕の時間を自由に活用できます。企業の生産性もアップすることは間違いないのです。一人一人が出社時間をずらして、通勤ラッシュを減らしていくことを、東京オリンピックを見据えて取り組んでいきます」(小池氏)

 64年の東京オリンピックが残したものは、東海道新幹線と首都高速道路であった。しかして、小池氏はハードを重視するのではなくソフトを重視する方向にあり、20年の東京オリンピックを契機に意識改革を図りたいとの考えがはっきりと見えるのだ。そしてまた、東京オリンピックを記憶と記録に残るものにしたいと力説する。

 時差Bizとともに、自宅で仕事をするテレワークによる働き方改革も呼びかけている。これには企業300社、鉄道11社が協力し、東京都内の企業はオリンピック期間中はすべてテレワークで仕事をして!と呼びかけているのだが、はてさていかがなものか。

 小池氏は東京都の景観にもこだわっている。ロンドン、パリ、香港など多くの主要都市は無電柱化率が100%となっている。台北が95%、ソウルは46%となっているが、世界に冠たる東京の無電柱化率はたったの5%なのだ。そこで25cmを掘るだけの新工法を採用し、一気に無電柱化を促進するという。

 「東京オリンピックでは、燃料電池車の定期バスも一気に導入します。選手村にも水素ステーションを作ります。世界に発信したいのは、日本の燃料電池車および水素エネルギー活用の技術なのです。これはエコニッポンの動く広告塔となるでしょう」(小池氏)

 ちなみに東京都は英国の著名な雑誌において、世界で最も住みやすい都市として3年連続第1位を続けているのだ。小池氏によれば、20年の東京オリンピックに向けて新しい東京を創るべく(1)セーフシティ、(2)ダイバーシティ、(3)スマートシティを目指すとしており、生まれ変わった東京を世界の人たちに見せたいというのだ。

 女性らしい細やかな視点で様々な防災対策も掲げている。それらは、(1)女性防災リーダーの育成、(2)女性視点の防災ブック、(3)液体ミルクの普及である。ちなみに、日本国内においては粉ミルクが圧倒的に普及しているため、世界で多く使われている液体ミルクの活用が遅れている。この普及に向けて食品業界に呼びかけをすることで、新たな製造業を創出する起爆剤にもなるという。

 ところで、省エネルギーという点では、実のところ日本人の右に出るものはないとさえ言われている。東京オリンピックを迎える国際都市東京もまた、海外金融系企業の誘致を進め、世界に冠たる観光都市を目指していく一方で、省エネ徹底のありさまを世界に発信するという。

 「燃料電池車の普及を進め、無電柱化を実現し、なおかつLED電球の一大普及を図ることが今こそ東京都に求められています。13億個の電球にLEDという半導体を使うことによって、原発13基分が不要になるといわれています。世界の流れは安全で安心なエネルギーの活用であり、東京都はその先頭に立たなければならないのです」(小池氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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