大手調査会社のIHSマークイットは、7月27~28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第33回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催した。注目の講演内容を登壇アナリストに聞く本稿の第6回は「中小型FPD&アプリケーション市場」を担当したシニアディレクターの早瀬宏氏に登場いただいた。
―― スマートフォン(スマホ)用パネル市場が混沌としていますね。
早瀬 アップルの新型iPhoneに関して、有機EL搭載モデルの発売時期がいつになるのか、初期出荷台数がどのくらいになるのか、まだ見えない。パネルの量産に相当苦労しているようで、ちょうど今が発売に向けた追い込みの最盛期に当たっている。
この有機EL搭載モデルの価格がどのくらいになるのか、ユーザーの反応はどうなのか、行方を見極めるため、他のスマホメーカーも足元でパネルの調達に慎重になっている。7~9月期いっぱいは見極めの期間になるのではないか。
―― それまで中小型パネルメーカーは収益確保に苦戦しそうですね。
早瀬 スマホ市場でもハイエンドとミドルクラスを分けて考える必要がある。ハイエンド市場は、先述のアップルの行方を見極めるため、スマホ各社がパネルの発注を増やしてくるのが10~12月期までずれ込む可能性がある。また、サムスンがGalaxy S8に採用したアスペクト比18.5対9のパネルサイズが注目を集め、このサイズに対抗する動きが各社から今後出てくるだろう。
一方、ミドルクラス市場は堅調に推移しており、中国パネルメーカーが順調に出荷を増やしている。既存のアスペクト比16対9の液晶パネル、解像度はフルHDで十分であり、インセルタッチが標準搭載されるようになり、金額ベースでも成長している。
―― 有機ELの搭載拡大はどこまで進みますか。
早瀬 まさに、ここから半年のユーザー評価が大きく左右するとみている。サムスンに続く韓国・中国の有機ELメーカーは量産化に相当苦戦するとみており、実際のところ進捗も芳しくないようだ。こうなると、スマホ各社が18年モデルの仕込みをどうするか、つまり有機ELの搭載モデル数を増やすのか、LTPSに戻すのか。製造技術の難易度、ビジネスリスク、イノベーションをどうバランスさせて利益を確保するのか、スマホメーカーもパネルメーカーも難しい判断を迫られることになる。
―― 一方で、車載市場は堅調なようですね。
早瀬 予測どおり年間1割増のペースで搭載枚数が伸びている。加えて、プリウスPHVの11.6インチ搭載に代表されるように、大画面化と高精細化が前倒しで進んでいる。従来は7~8インチのWVGAが主流だったが、WXGAの比率が高まっており、想定より1年前倒しでフルHDも登場してきた。
―― 今後の見通しは。
早瀬 白線センシングなどの安全機能の搭載が標準化してきているため、ディスプレーの搭載枚数はまだ伸びる。なかでもヘッドアップディスプレー(HUD)と電子ミラーに対する期待が高い。HUDは先ごろカムリに搭載され話題になったが、電子ミラーは普及にもう少し時間がかかるとみている。ただし、いずれも上ぶれ要因であり、EVの増加でLTPSの搭載も徐々に進みそうだ。
―― スマホや車載以外の用途について。
早瀬 デジカメ用の出荷は減少が続いているが、ゲーム用は「ニンテンドースイッチ」のヒットで17年はプラス成長に転換しそうだ。VRヘッドセットは、それなりに出荷台数が伸びているものの、現在はアミューズメント施設向けなど業務用がメーンだ。当初の期待があまりに高すぎたのだと思っているが、家庭用に普及するのは当面厳しいのではないか。
(聞き手・編集長 津村明宏)
「第33回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報はセミナー事務局(E-mail :
technology.events@ihs.com、Tel.03-6262-1824)まで。