電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第236回

「モノ」から「コト」の時代に移行するのがIoT革命の本質


~日立製作所のIoTプラットフォーム“Lumada”に注目したい~

2017/6/2

 IoT革命は世界で進行しており、いよいよその姿を明らかに見せ始めた。第4次産業革命とも言われる一大技術革新の時代が到来しているわけであり、IoTによって創出される新市場は360兆円とも言われている。AI、ロボット、センサーなどが主役となっていくが、最も重要なことはIoT全体のシステム作りにあるのは間違いないだろう。

 ちなみにIoT推進に伴う世界のデジタル化はそれぞれのエリアで違う名前が付けられている。ドイツを中心とする欧州では「インダストリ4.0」、中国では「中国製造2025」、アジアでは「スマートシティ」、北米では「インダストリアルインターネット」というように、それぞれがデジタルによる製造と社会インフラの革新をアナウンスしているのだ。

 そして我が国ニッポンにおいては、内閣府が第5期科学技術基本計画である「超スマート社会 SOCIETY5.0」を打ち出した。少子高齢化に悩む日本こそがAI、ロボット、センサーを駆使し、これまでのモノづくり立国からコトづくり立国へ変わっていく必要があるというのだ。

 「EUは2030年までにエネルギー消費40%削減を打ち出している。また2020年までに世界人口の56%が都市に集中してくる。そしてまた2020年までに世界の高速鉄道に対する投資は6000億ドルを超えてくる。こうした様々な問題や事象の解決を図る必要があり、このコアがIoT化なのだ」

日立の齊藤副社長が語る「IoTプラットフォーム」(於とやま企業立地セミナー)
日立の齊藤副社長が語る「IoTプラットフォーム」(於とやま企業立地セミナー)
 こう語るのは日立製作所にあって代表執行役副社長を務める齊藤裕氏である。同氏は日立でIoT推進本部長の任にあり、この談話は2017年5月22日に開催された「とやま企業立地セミナー」(於椿山荘)の講演におけるものであった。

 日立製作所は1910年に創業し、今年で107年目を迎える。2016年度の売り上げは9兆1622億円となり、利益は6.4%を確保、従業員は30万3887人となっている。最近の売り上げ構成比率は電力を含む社会・産業システムが23%、情報通信システムが20%、電子装置システム12%、オートモーティブ10%、建設機械7%、材料4%となっている。いわゆる社会インフラのシステムに係わるところが43%を占めており、かつての何でもやっている総合電機の姿からは大きく変貌を遂げている。

 「日立のIoTプラットフォームはLumada(ルマーダ)と呼ばれており、これはilluminate dataの略称となるもの。お客様の持っているデータや日立の現場のデータを活用し、新しい情報、新しい価値を作っていくという意味だ。日立はかつて自社技術にこだわりすぎていたが、今はお客様と共に一緒に作る協創の精神を大切にしている」(齊藤副社長)

 ところでIoT時代の先駆けとなるのが、日立大みか事業所の生産革新であるという。2000年から着手したが、RFIDで生産を監視し、画像分析で見える化を図り、3D-CADを導入、ひたすら分析と対策を講じた結果として分かったことは大変なものであった。つまりは工場内の無駄、工程内の無駄がすべて浮き彫りとなり、現状においては少量多品種生産にもかかわらず、リードタイムを50%も削減したというのだ。大みか事業所は気が付いてみれば、IoTで先駆けた工場へと変化していた。こうしたノウハウを生かして、日立はスマート製造およびIoT革新に打って出ている。

 「中国におけるスマート物流、トータルサプライチェーン管理や欧州における予兆診断、インドにおける金融のデジタルネットワーク決済などで、日立のシステムが使われている。また三井不動産が進める柏の葉スマートシティでは、エネルギーの効率的運用/監視/制御のシステムを導入した。ハワイ州マウイ島ではバーチャルパワープラントを作り上げたが、これは日産のEVであるリーフ600台を持ち込み、2025年をめどに風力発電、太陽光発電、EV、蓄電池ですべてが動くという社会を構成するものだ」(齊藤副社長)

 確かにIoTは「モノ」から「コト」へ移行する社会をもたらすのだろう。そしてまた何かを占有するのではなく、シェアするという考え方も強まってきた。もちろんクローズドからオープンという方向性も出てきている。しかしてIoTプラットフォーム確立と世界への全普及を宣言する日立製作所のリーダーである齊藤裕氏は、少し顔を曇らせて講演の終わりの方でこう述べていたのだ。
 
 「確かにIoT革命はイノベーション創出のチャンスである。しかしてAmazonはクラウドを構築し、サーバーを作り、すべてのネットワークを独占しようとしているかに見える。ITサービスからIoTサービスへの流れの中でも、上流は全部Amazonがやってしまう。流通や物流さえもAmazonに独占されれば、その下に日本企業が張り付くという関係性となる。これを打破しない限り、IoTにおける日本企業の存在感は出てこないだろう」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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