電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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IoTや自動運転のインフラに


~5Gがすべてを変える~

2017/5/8

 第5世代移動通信システム(5G)が実用化に向けて本格的に動き始めている。2017年半ばには標準化プロジェクト「3GPP」から基本仕様のフェーズ1が公表される予定で、19年に登場するフェーズ2を経て、日本では東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年から実用化が本格化する見通しだ。

 5Gは、既存の4Gインフラに対して、通信速度が10倍、遅延時間が10分の1になるといわれている。この超高速大容量通信が実用化されると、現在の4Gでは不可能だったことが可能になる。接続可能な機器の数が100倍以上になるといわれ、M2MやV2Xを含めたIoT環境が本格的に整うことになるのだ。

 5Gインフラの整備だけではエレクトロニクス業界への恩恵は小さいが、低遅延を活かしたIoTの普及に伴うエッジコンピューティングの本格化、自動運転や遠隔医療・教育の実現、スマートフォン(スマホ)や家電のさらなるスマート化、そして省エネ化まで考慮すると、社会の変革にきわめて大きなインパクトを及ぼすことになる。

 この5Gの実用化に関しては、これまで日本と韓国が世界で最も前向きといわれてきたが、ここにきて中国が一気に5Gへ舵を切り始めた。国策として20年までに5兆円のインフラ投資を実行する考えだ。

 中国は「世界の工場」と呼ばれて久しいが、近年は人件費の高騰や環境問題の深刻化に頭を悩ませている。これを5GとIoTで解決するべく、自動運転の実現と電気自動車(EV)の普及拡大、M2Mの実現に向けた製造業の自動化投資などを一気に推し進めていく流れにある。

 これに伴い、電子デバイス市場にも好循環がやってくると期待する。例えば、現在の自動車に搭載される半導体は1台あたり200ドル程度だが、ハイブリッド車では450ドル、自動運転車になると1200ドルまで跳ね上がる見通し。また、スマホ市場は現在過渡期だが、18年ごろから音声認識技術が実用化され、いよいよ対話型インターフェースが本格的に登場する。これにより新たなサービスが付加され、ヘルスケアなどと相まってスマホ市場も再び活性化してくるだろう。

 さらに、5Gの要素技術といわれるMassive MIMO(マッシブマイモ)にも注目する必要がある。MIMOは複数のアンテナを使ってデータを送受信する技術で、LTEでは送信側・受信側ともに8本のアンテナを用いる8×8MIMOなどが規格化されているが、5Gでは100以上のアンテナを活用することが想定されている。GaNやFPGAといった通信デバイスのさらなる進化がカギを握るはずだ。また、すでに現時点でシリコンウエハーなど主要半導体部材が供給律速に陥っているが、この解消も課題となる。

 さらに付け加えると、一連の動きに伴い、世界の電力需要がますます逼迫してくる。この解決にもやはり半導体が大きな役割を果たすが、従来のような微細化や大容量化を追求するだけでは難しい。どうすれば超省エネを実現できるのか、人工知能(AI)やAIチップの開発の行方にも目を向けていく必要がある。日本は技術立国として引き続き5G実用化の先頭を走っていくべきだ。

(本稿は、南川氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成)




IHS Technology 日本調査部ディレクター 南川明、お問い合わせは(E-Mail : Akira.Minamikawa@ihsmarkit.com)まで。
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