電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第194回

NEDIA戦略マップを読み解く(3)


~IoTはシミュレーション用ツール~

2017/4/21

 日本電子デバイス産業協会(NEDIA)発行の「戦略マップ2015」。今回はその読み解きの3回目(最終回)。読み解きは前回と同様、元日立製作所の松本哲郎氏にお願いした。
 NEDIA策定の戦略マップは、もともと半導体を中心とした日本電子デバイス産業の復興を意図したもの。しかし、松本氏の解釈に耳を傾けるうちに、産業界を問わず、全業界に共通する次代の新しいビジネスモデルの台頭を予感した。

“きづき”の重要性

 通常、会社の成長指針を示すために、中期経営計画を策定する。いわゆるロードマップのようなものだ。ロードマップには2つのタイプがある。1つは将来の社会課題を想定し、自社技術の進化を積み上げていくバックキャスト型。もう1つは現在の自社技術を認識したうえで、時間軸に従い、未来に到達するフォアキャスト型である。どちらのタイプも各社ごと、売り上げ規模の違いはあれ、IR要素を含んでいるために、その内容は似たり寄ったり。関連各社みんな同じ方向を向き、ビジネス競争を展開する、いつものビジネスモデルである。

 第1回はここに、“きづき”の重要性を示唆した。きづきとは、社会に貢献できること、顧客が喜ぶことを模索する作業である。この作業から、次代のビジネスモデルは“モノ”の提供一辺倒に終始せず、深みと広がりのある“コト”含有の商品提供を意味することになる。モノとは従来ビジネスに共通するハードの提供、コトとはより高い付加価値の提供である。付加価値だけを提供することはできないので、コトにモノを乗せて、市場投入することが次代ビジネスモデルの原点となる。

技術と市場の方向性を押さえて

 ただ闇雲に付加価値を模索しても、見当はずれを引き起こしては大変なので、技術と市場の方向性をしっかり押さえたうえで、付加価値の模索が必須となる。この方向性について述べたのが第2回。

 技術の方向性で重要となるのが4つの言葉で、(1)無給電、(2)自己成長、(3)意味理解、(4)百年耐久である。(1)は顧客を電源の心配から解放すること、(2)はアップグレードするたびに新品への買い替えを顧客に要求しないこと。AI(人工知能)などを有効利用し、既存製品のままソフトウエアで対処する。(3)はデータ活用で、状況を推し量る技術である。そして(4)が文字どおり、壊れないことを前提とした長寿命化技術である。

 一方、市場の方向性は、3つの言葉で成り立つ。(1)驚き提案、(2)自分仕様、(3)隠れた機能である。(1)は顧客をわくわくさせ、購買意欲を生む商品開発。最近ではドローンやお掃除ロボットの登場が該当する。(2)は自分だけのために開発された商品。気に入ったデザインがあっても、店頭にてんこ盛りで同じ商品が並んでいると、購入に二の足を踏む。オンリーワンであってこそ、購買意欲が強くなる。(3)は安心や安全、セキュリティーなど、商品が持っていて当たり前のコトを意味する。

 次代のビジネスモデルは、技術と市場の方向性をしっかり押さえ、そこに潜むコトを踏まえて、その上にモノに乗せて提供することである。そのことにきづきを得た企業のみが、成長路線に乗ることができる。前置きがずいぶんと長くなったが、最終回の第3回は、きづきを得るための戦略を報告する。

コアとなるものは

 きづきをビジネスにつなげるための戦略で重要となるのは、社会全体に流れる、時代のコアを認識すること。1990年代のコアはインターネットとパソコンであった。2000年代に突入し、コアはインターネットとスマートフォン(スマホ)に移行した。そして20年以降に向けて、コアとして台頭するのがIoTと呼ばれる様々な取り組みである。

 IoTを形成するハード領域を思い浮かべると、センサーやハブ、ゲートウェイ、ネットワーク、データセンターなど。これに付随して、各種センサー、センシングモジュール、スイッチ関連、フラッシュメモリー、同軸コネクターなど、様々な電子デバイスが浮上してくる。

 ここで注意してほしいことがある。かつてのコアであったインターネットやパソコンなどに対し、現在はこれらにビジネス商機を見出す企業はほとんど存在しない。時代の流れのなかで、かつてのコアは、汎用品もしくはツールになっているのである。大事なことは、インターネットやパソコンあるいはスマホを使って、顧客に何を提供するかである。それがビジネス商機を見出すカギになる。IoTも同じ。話題のIoTもやがては空気のような、存在して当たり前、ツールの立ち位置に落ち着いてしまう。

IoTはシミュレーション用のツール

 いつかはツールとなってしまうIoTハードの世界で、ビジネス競争を展開するのは既存のビジネスモデル。次代のモデルを睨んでみると、シミュレーションがクローズアップされてくる。リアルなビジネスの世界を、パソコン上のバーチャルな世界に写像し、シミュレーションする。これこそがIoTの本質である。

 技術の方向性と市場の方向性を押さえたうえで、サプライチェーンやバリューチェーンなど、様々な項目にIoTで取得したデータをパラメーターとして入力。顧客や工場などの動きをシミュレーションするのである。そのシミュレーションの繰り返しのなかで、若い人の想像力は、顧客が求める新たなコトの存在にきづきを得ることができる。

 興味深い出来事が起きた。今年2月28日付で、ユニクロを展開する(株)ファーストリテイリングは、主要取引先となる縫製工場のリストを公開した。これは絶対に漏洩させたくない、重要な社内機密リストであったはず。同社はIoT時代到来の本質を読み取ったのではないかと想像する。縫製工場のリスト公開は、もはや、そこにビジネス競争の価値が存在しないことを意味する。新しい価値に気付いたからこそ、古い価値観は捨て去ったのであろう。

 エレクトロニクス業界から生まれたIoTの思想も、それを本当に有効利用するのは、一番遠いところに位置する業界かもしれない。電子デバイス業界は、ひたすら既存のビジネスモデルを踏襲し、ハードの世界を追い求めるだけでよいのだろうか。

 なお、NEDIAでは「戦略マップ2017」版を7月に発行する予定。新版ではロボット産業を掘り俯瞰するとともに、提示している109項目の技術展開リストについてインパクト評価を行い、事業化を考えるヒントとして提示する予定である。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

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