電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第212回

大阪大学大学院工学研究科 教授 舟木剛氏


SiCの「使いこなし」を研究
企業と連携し実用化促進

2017/3/10

大阪大学大学院工学研究科 教授 舟木剛氏
 大阪大学大学院工学研究科の舟木剛教授は、エネルギーや社会システムのあるべき姿を検討し、その実現に向けた構成要素としてのパワーデバイス、システムの研究開発を行っている。国立科学技術振興機構(JST)のスーパークラスタープログラムなどの産官学連携事業にも参画し、SiCデバイスの普及拡大に向けた取り組みを進めている。SiCの社会実装に向けた最新の研究開発動向について話を聞いた。

―― SiCの社会実装への取り組み概要を。
 舟木 SiCパワーデバイスを社会実装するためには、デバイスそのものの性能に加えて、使い方が問題となる。SiCデバイスの性能を最大限に発揮させるためには、既存のシリコンパワーデバイスとは異なる使い方を創出する必要がある。
 私はスーパークラスタープログラムにおいて回路・システム研究開発グループに所属し、SiCデバイスの性能を最大限に引き出すための研究開発を実施して、成果を企業に移転する取り組みを行っている。

―― 具体的な研究開発テーマは。
 舟木 まず高温への対応がある。基板にセラミック、パッケージに高耐熱樹脂を採用し、接合材料ははんだを専門とする阪大産業科学研究所の菅沼研究室と協力して200℃以上の高耐熱性を実現した。シリコンIGBTを超える高温動作も実証している。長期信頼性に課題があるため、接合部などのメカニズム解明を進めている。
 高速スイッチングへの対応もある。SiCデバイスは高速スイッチング性に優れるが、サージ電圧が高くなることから素子の不具合につながるという問題がある。これを防ぐためには配線を短くする必要があり、モジュール化による対応を検討した。サージ電圧の抑制に用いるスナバコンデンサーとして、(株)村田製作所の高耐圧セラミックコンデンサーをモジュール内に搭載した。また、回路の立体化が必要になるため、耐熱性に優れる京セラ(株)の積層セラミック基板を用いている。
 さらに、日本電産(株)と共同で機電一体型モーターの開発を行っている。SiCデバイスを用いることで冷却機構を削減でき、駆動部であるインバーターを大幅に小型化できる。最終年度の2017年度には成果を発表したい。

―― SiCデバイスを使いこなすための研究も行っている。
 舟木 スーパークラスターにおいても民間企業によるSiCデバイス採用製品が発表されているが、一方でSiCを使いこなすためのノウハウは不足している。
 そこで、デバイスで起きている現象を解析し、学術的な成果として発表している。誤動作を防ぐ適切な使い方を提示するための、理論的根拠として活用できる。モジュールにおいては、汎用モジュールのパフォーマンスを最大化できる外付けスナバコンデンサーを村田製作所と共同で開発している。
 デバイスの社会実装のためには、それをどう使うかを示すことが重要だ。その手順の一般化こそ、大学としてやるべきアプローチだと考えている。

―― 今後取り組んでいきたい研究テーマは。
 舟木 SiCデバイスは、今後再生可能エネルギーやエネルギーマネジメント分野において活用が進むだろう。しかし、発電時や電力変換時には大きなロスが発生しており、デバイス性能を十分に発揮できていない。それらのロスを最小限に抑制する研究を行って普及拡大に貢献したい。

(聞き手・中村剛記者)
(本紙2017年3月9日号3面 掲載)

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