電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第186回

トランプ大統領が叫べば、ファナックが儲かる?


米国の投資増で国内FA関連企業に追い風

2017/2/24

 ドナルド・トランプ米大統領が誕生して約1カ月が経過した。「アメリカファースト」を声高に主張し、経済の面では米国内への製造業の回帰を強く訴え、米国内に製造拠点を設置する企業に対して減税などを行う方針を示している。

 その成果は早速表れており、自動車大手フォード・モーターがメキシコでの新工場建設計画を取り消し、ミシガン州の工場に7億ドルを投資し700人を雇用すると発表。半導体大手のインテルもアリゾナ州の工場に70億ドルを投資する計画を明らかにしている。

トヨタなどが米国での投資計画を発表(写真はトヨタの米インディアナ工場)
トヨタなどが米国での投資計画を発表
(写真はトヨタの米インディアナ工場)
 日本企業でもソフトバンクグループが、今後4年間で500億ドルを米国に投資する方針を表明し、トヨタ自動車は米インディアナ工場へ約6億ドルを投資する計画を発表した。良くも悪くもトランプ大統領の発言に各業界が翻弄されている印象だが、大統領の発言が追い風になっている業界がある。産業用ロボットをはじめとしたFA関連企業だ。

ロボットへの注目高まる

 トランプ大統領が米国内への製造業の回帰を声高に叫ぶ理由はもちろん、雇用の創出である。ただ、米国の人件費は高く、失業率もここ数年下がっている。また現在、全米では「ファイト・フォー・フィフティーン」と呼ばれる最低賃金を時給15ドル引き上げようという動きが活発化しており、企業の経営サイドから見た場合、新たな人材の獲得は難しさを増している。

 その結果、ロボットなどのFA機器を導入し、自動化・省人化を検討する企業が増えており、特に産業用ロボットの企業関係者からは「(トランプ大統領の誕生が決まった2016年11月以降)米国からの引き合いが増えている」という声が聞かれている。

 産業用ロボットは日本企業が世界シェアの5~6割を持つとされ、米国での投資が増えれば増えるほど恩恵を受けることは間違いない。では、数ある産業用ロボット企業のなかで特に恩恵を受けるのはどこか。答えはファナックだ。

GMとの連携で米国市場での地位を確立

 現在、産業用ロボット市場は、ファナック、安川電機、ABB、KUKAが4強と言われており、この4社で世界シェアの約8割を持つとされる。そのなかでファナックは米州での存在感が強く、グラフで示すようにロボット部門の売上高の約半分が米州市場である。


 同社の米国におけるロボット事業の歴史は古く、1982年に米ゼネラルモーターズ(GM)との共同出資により「GMファナックロボティックス社」を設立。GMとの連携を活かし、米国市場におけるロボットの導入実績を積み上げ、米国最大のロボット会社としての地位を確立した。そして92年にGMファナックロボティックスはファナックの完全子会社となり、社名をファナックロボティックス社とし、現在に至るまで米国のロボット市場で高いシェアを誇っている。

 ファナックは現在、ロボットの生産を山梨県忍野村の本社工場ですべて行っているが(月産5000台)、茨城県筑西市にある筑波工場の一部をロボット製造(月産1000台を計画)に転換する作業を進めており、2017年4月から生産を開始する。また、同じ筑西市にて約28.7万m²の敷地を16年6月に取得しており、産業用ロボット用の新工場計画も進行中。具体的なスケジュールは未定だが、生産能力は月産5000台と推定されており、需要の増加にも対応できる体制を急速に整備している。

スマホ生産がさらに追い風?

 話は変わるが、トランプ大統領は、選挙戦の勝利後に、製造業回帰の目玉としてアップル社のティム・クックCEOに電話をし、「iPhoneを米国で生産してほしい」という要望を伝え、クックCEOから前向きな返事を受けたと言われている。これはつまりアップル製品の組立を請け負う鴻海精密工業(フォックスコン)が米国内に工場を作ることを意味する。

 これについては「サプライチェーンやコストなどを考えると実現性は低い」という見方が一般的だ。しかし、鴻海は傘下のシャープと米国に液晶パネル工場建設を検討しているほか、ソフトバンクグループの孫正義社長が前述の投資を発表した際に、報道陣に公開した文書にフォックスコンのロゴも印刷されていたことから、EMS工場が米国に建設される可能性もゼロではない。

 もし仮に米国内でiPhoneを生産するとなった場合、ここでもファナックが恩恵を受けることになる。というのも、フォックスコンの工場にはファナックのFA関連製品が多数導入されており、フォックスコンが大型投資を実施した11~12年度には、ファナックからフォックスコンへの販売額が2年間で約1393億円にものぼった。

 ちなみに、スマートフォン(スマホ)関連では、サムスン電子が14年ごろにベトナム工場でスマホの生産を強化した際にもファナックの製品は大量に導入され、14年度におけるファナックからサムスン電子ベトナム・タイグエン社向けの販売額は約940億円にものぼった。つまりはスマホが増産される際には、ファナックのFA機器が多数導入されるというわけだ。

 現状を見ていると、トランプ大統領のスタンスは変わることはないだろう。その影響がどう広がっていくかはまだ見えない部分が多いが、トランプ大統領が「アメリカファースト」を叫べば叫ぶほど、ファナックをはじめ日本のFA関連企業にとって追い風となることは間違いないだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

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