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第179回

TFT液晶、マザーガラスの大型化再来


10G以上は6工場に

2017/1/6

 2010年にシャープが堺市に第10世代(10G=2880×3130mm)工場を稼働して以降、止まっていたアモルファスシリコン(a-Si)TFTのマザーガラスの大型化競争が、ここに来て再び活発化している。すでに10.5G(2940×3370mm)工場の建設を表明している中国のBOE(京東方科技)、CSOT(華星光電)に続き、中国の液晶モニターメーカーであるHKC(恵科電子)、シャープを傘下に収めた台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)から新工場の建設計画が浮上。これに、計画の詳細を明らかにしていないものの、坡州に新工場「P10」の建設を表明している韓国LGディスプレー(LGD)を合わせると、20年前後に世界で10G overの工場が合計で6つ操業することになる。


大型化の背景に「垂直統合」

 マザーガラス大型化の背景にあるのが「垂直統合」だ。

 その意思をまず明確に示したのがHKC。同社は液晶モニターを中心にスマートフォン(スマホ)やタブレット、ノートPCなどを生産する組立メーカーで、主に深セン市や広西チワン族自治区の北海市、重慶市などに組立工場を持つ。中国モニター市場でシェア3位、27インチと32インチに限定すると最多の販売量を誇るという。特に重慶市は、スマホやノートPCの組立企業が集積していることで知られる。HKCは自社で必要なTFT液晶パネルを内製で確保して価格変動の影響をキャンセルし、最終セットのコスト競争力を高めていくため、液晶パネルからの垂直統合を指向したといわれている。

 内製化の第1弾として、すでに重慶市政府らから支援を得て、8.6G(2250×2600mm)工場Fab1を建設中。投資額は120億元で、月産能力を当初計画の6万枚から7万枚に変更し、16年末に竣工、17年1~3月期に稼働する予定だ。Fab1の生産開始から半年以内にFab2(月産能力は未定)の着工を計画している。
 次いで、雲南省昆明市に10.5Gまたは11G(2980×3430mm)工場の建設計画が浮上した。16年12月に昆明市政府と液晶パネル工場の投資に関する協議書を締結し、17年3月からの建設開始を目指すという。総投資額は400億元を想定しており、うち220億元で月産9万枚の液晶パネル工場を建設。また、50億元を投じて年産500万~1000万台の液晶テレビ工場も建設する考えだ。

鴻海は外販中止・内製強化で「垂直統合」

 鴻海は、シャープを傘下に収めたことで、シャープとイノラックスの液晶パネル生産能力を1つと捉え、シャープの優れた液晶生産技術をより活用していく流れにある。大手調査会社IHS MarkitのDavid Hsieh氏は、筆者との取材のなかで、鴻海のシャープ改革について「シャープの黒字転換、中国テレビ市場でのシャープブランドの強化・拡大、パネル増産への新規投資という3段階で進む」との見解を示した。

 その改革の1つが、国内でも大きく報じられた「液晶パネルの外販中止」だ。シャープは堺10Gから韓国サムスンや中国ハイセンスなどに32インチなどを供給してきたが、グループのOEM/ODMビジネスに必要な液晶パネルをシャープとイノラックスから調達するため、外販を中止するつもりだ。

 こうした流れを察知してか、サムスンはすでに16年秋、CSOTが建設する10.5G工場の運営会社に21億元を出資し、株式の9.77%を取得した。もともとは8.5G工場に出資していたが、これから撤退して10.5G工場に乗り換えたかたちになる。これによって、サムスンはCSOTからテレビ用の大型a-Si TFTを調達できるようになるため、今後ますます有機ELの増産投資に集中するだろう。

 その鴻海は、中国の広東省広州市などを候補地として、11Gクラスの大型液晶工場の建設を検討していると国内メディアが報じた。鴻海は現在、マスクの内製やカラーフィルターラインなど堺10G工場の増強を進めているが、これとは別に、グループ内で2カ所目となる10G overのa-Si TFT工場を持つことになる。一方で、シャープ買収以前に計画していた中国の河南省鄭州市と貴州省貴陽市のLTPS 6G工場の新設を凍結しており、当面は具体化させないと思われる。

LGDは10G overで有機ELか

 垂直統合を指向して10G overの液晶工場が林立すると、頭を抱えるのがLGDだ。周知のとおり、LGDは世界で唯一、テレビ用の大型有機ELパネル(WOLED方式)を8.5G工場で量産しており、他のテレビメーカーにも供給している。まずは55インチの有機ELテレビを市場に投入したが、中国の液晶メーカーが8.5G工場を相次いで立ち上げた結果、取れ効率の良い55インチ液晶が数多く供給されるようになって価格が下がり、55インチ有機ELテレビと55インチ液晶テレビの価格差が広がった。

 これに伴い、有機ELのプレミア感を高めるため、LGDはさらに大画面の65インチと77インチの有機ELテレビを商品化し、液晶に付き上げられるかたちで65インチを主力にする努力をしている。16年7~9月期の決算カンファレンスでは「17年は65インチの構成比がさらに上がる」と説明している。だが、18年から10G overの液晶新工場が相次いで立ち上がると、10.5Gで8枚取りが可能な65インチ液晶の供給量が急増する。こうなると、サイズ面に限っては有機ELのプレミア感がまたしても薄れ、8.5Gで液晶との価格勝負に挑まざるを得なくなる。

 こうした点を総合すると、現在は「超大型基板を使う」としか説明していない坡州P10には、10.5G以上のマザーガラスを用いたWLOEDラインを設置すると考えていい。16年7~9月期の決算カンファレンスでは「当社は液晶の生産能力削減と有機ELの能力増強&ビジネス拡大に努めており、液晶の生産能力を有機ELに転換していくのがファブ戦略だ」と述べており、液晶に追加投資する気はない。10.5G以上で有機ELを生産するなら、インクジェットなど印刷プロセスの採用も視野に入れているようだ。

供給過剰と装置の納期に懸念

 前記以外で10G overを計画する可能性があるのは、中国のCECパンダだろう。CECは、かつてシャープから技術供与を受けて、南京市に6G工場を建設・稼働し、現在は成都市に280億元を投じて8.6G工場の建設を進めている。17年秋以降に製造装置の搬入を始める予定で、ここではIGZO(酸化物TFT)の量産も計画している。また、ガラス基板メーカーのイリコ(彩虹)が咸陽市に建設予定の8.6G工場の立ち上げにも協力する予定。だが、シャープが鴻海の傘下に入ったため、今後の技術支援は見込みづらく、単独で10G overを計画できる技術力を蓄積できるのかが問われるだろう。

 いくら液晶テレビの平均サイズが大型化して面積ベースの需要が拡大していても、10G overの工場が20年前後にすべて稼働に移れば、当然のごとくテレビ用液晶パネルの供給過剰が懸念される。また、新設計画がひしめきあうと、露光をはじめとする製造装置の納期にも影響が及ぶ。このあたりをどう見極めながら建設計画が進むのか、17年もFPD業界から目が離せない。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村明宏

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