電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第213回

農業にもIoTの光、マイコン、センサーを駆使し大規模化


~日本の食品産業は過去最高ピーク、生産のIoT化探る~

2016/12/16

 日本政府は「強い農業」また「攻めの農業」政策を推進しており、植物工場や施設園芸に参入する企業や団体が急増している。食料需給率の低さ(カロリー40%、金額60%)が危惧される日本の農業は何としても再生しなければならない。

 植物工場は施設内で植物の生育に必要な環境をLED照明や空調、養液供給などにより人工的に制御し、季節を問わずに一年中生産できる。シャープはいちご、グランパは太陽光利用型のエアドーム式植物工場(岩手県陸前高田市)でレタス、グリーンリーフを栽培。富士通は福島県会津若松市にある低カリウム化技術の完全人工光型植物工場でリーフレタスを生産。何と、半導体製造のクリーンルームを転用している。この他にも三菱化学、日本グリーンファームなどに注目したい。

 パプリカは非常に輸入が多い野菜であるが、輸入全量2.2万t(約90億円)を国内でまかなう場合、新たに植物工場を135万m²設置することが必要と推定され、その際には750億円の設備投資が必要になるのだ。

 世界で知られているオランダの施設園芸は、産官学連携によるクラスター形成で成り立っており、いまやEUを代表する農業国にのし上がった。日本はこのオランダ型を見本にしており、エネルギーを木質バイオマスなどの地域資源、またはガスにしてリサイクルする。現状における日本の園芸用施設は、植物工場が40万m²、環境制御装置を備えたガラス室やハウスは816万m²、環境制御装置がないパイプハウスは4億8233万m²となっている。

チノー山形の植物栽培実証ハウス
チノー山形の植物栽培実証ハウス
 ところで、なかなかデファクトスタンダード(事実上の世界標準)をとれない日本企業にあって、温度という分野で世界標準をとっているのはチノーというカンパニーである。同社の山形事業所には実にユニークな施設がある。それは植物栽培実証ハウスであり、温湿度センサーやCO2センサーなど数種類のセンサーが配置され、24時間、365日の計測環境で各種の検証を積み重ねているのだ。IoTの本格的な開幕を迎えて、大規模農業のIT化が国内外で加速していくことは間違いないことだろう。マイコンで制御し、チノーのようなセンシングデバイスで計測し、かつLEDなどの半導体デバイスを駆使する次世代型農業は、まさにこれから一大ブームが予想されるのだ。

 さて、食品産業はここにきて過去最高ピークともいうべき領域に入ってきた。大手各社は過去最高売り上げ、最高収益を出し続けている。製パン業界で国内シェア40%を掘る最大手の山崎製パンはいよいよ1兆円の大台に売り上げを乗せてきており、2020年以降は1兆2000億円以上に引き上げる戦略だ。関西地区における新たな基幹工場の神戸新工場は200億円を投じ2018年3月に稼働するが、ここには最先端のIoTシステムが導入されると見られている。キユーピーに次ぐマヨネーズ2番手のケンコーマヨネーズは2017年3月期に700億円の売り上げを見込み、実に3年間で150億円も売り上げを引き上げた。先ごろ150億円を投じ、グループ生産拠点の再構築をすることになったが、ここにおいてもIoT活用が検討されている。

 明治製菓はいまや1兆円を超える企業になり、老舗の100年企業として有名。2018年までには売り上げ1兆2500億円以上を狙っていく。90億円を投じ、北海道十勝工場内にカマンベールチーズ製造の新工場建設を決めたが、これ以降の工場建設にはやはりIoT活用を考えている。

 食品産業におけるIoTの構築は、一方でそれほど劇的な効果がないとも言われている。大手における各メーン工場はFAを活用した自動化が推進されているため、徹底的な省人化に向かっている。それゆえにIoT構築は必要ないとの意見もある。しかしながら、IoTは様々な別の効果を持っている。まず第一に、IoT導入により各装置やプロセスの待ち時間が劇的に短縮され、製造する時間そのものが一気に短縮されたという例が出ている。時間はコストに勝つのだ。旬の時期に旬の新製品を投入することはメーカーにとって死活問題であり、同じような製品開発をしていた場合、一番先に商品を出した企業が勝つのは当たり前。つまりは、製品開発の時間もIoTにより短縮されるのだ。

 生産現場だけではなく、生産管理、経営企画、営業企画、各物流拠点、搬送状態に至るまでIoT管理ができれば、さらに人の数は減り、製品コストは引き下がっていく。食品におけるIoTによる模索はこれからが本番なのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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