電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第212回

ロボット王国ニッポン死守で家庭向けに展開、大型設備投資断行


~東芝の地平ジュンこに注目、ファナックなど新工場が陸続~

2016/12/9

 世界に冠たるロボット王国であるニッポンは、産業向けロボットの分野で圧勝しており、世界シェアは6割近くを持っている。日本政府は国内で生産されたロボット製品の出荷額を現状の6600億円から2020年度に2兆4000億円に引き上げることを目指している。そのためには産業向けに強いだけではなく、今後の焦点となる家庭向けに展開する必要があるのだ。東芝、NEC、シャープなどの動きに注目したい。


 東芝グループは1980年代からロボット事業に参入しており、03年にはパーソナルロボットを試作し、人との音声コミュニケーションに成功した。05年には話しかけた方向と内容を理解して受け答えする聞き分けロボットと、登録された人を探してついてくるお供ロボットも開発した。14年には人間らしい容姿で腕や手が自然な動きをするコミュニケーションロボットを開発し、高齢者や認知症患者の話し相手ができる仕様にし、20年の東京オリンピックに向けては日本語、英語、中国語を話す「地平ジュンこ」というロボットを開発した。

 NECは97年からコミュニケーションロボットの開発に取り組んでおり、パペロシリーズとして長年展開している。05年には家庭における世界初のベビーシッターロボットを発表。最近ではパペロアイという最新シリーズのレンタルを開始しており、利用者のニーズに合った仕様で作っている。

 シャープは12年6月に掃除用ロボット「ココロボ」を発売し、家電分野の技術を活かした開発をさらに促進している。ロボットと携帯電話を融合した「ロボフォン」の販売も16年5月から開始したが、二足歩行が可能な小型のヒューマノイドロボットであり、19万8000円で10万台の販売を目指す。

 一方、日本勢は雨あられの大型設備投資断行にも踏み切っている。

 ファナックは茨城県筑西市に55億円で用地を取得し、500億円を投じる新工場建設に着手することを決定した。20年までには稼働させる見込みで、溶接や箱詰めに使う産業用ロボットの生産能力を倍増させる計画だ。山梨県忍野村の本社工場は産業用ロボット月産5000台の生産能力を持つが、茨城新工場の稼働で月1万台以上になる。同社は基幹工場をすべて日本国内に置き、今後も海外に工場新設する考えは全くないという。

 ベアリング(軸受)大手の不二越も事業の柱をロボットに転換することを決め、200億円を投じて国内外に新工場を建設する計画を明らかにした。営業拠点の整備には100億円を投じ、世界の10カ所にロボットの実機を使ったシステム事例を紹介する施設を設けていく。現状のロボット生産能力は年間1万台であるが、これを18年までに4倍の4万台に引き上げていく。ロボット事業の売上高としては、20年に15年比約7.5倍の1600億円に拡大したい考えであり、全社におけるロボットの比率は40%まで引き上がっていく。

 半導体製造工場におけるウエハー搬送ロボットで世界最大手(何とシェア50%)の川崎重工業も100億円を投じ、神戸に新工場建設を決定した。現在の生産能力は月800台であるが、これを6割増の1300台に引き上げるというのだ。延べ床面積は約2万6000m²、18年3月までに稼働させる。あらゆるものがインターネットにつながるIoT時代にあって、センサー、メモリーなどの半導体需要は急増すると見て新工場建設に踏み切った、といえよう。

 産業ロボットの世界チャンピオンである安川電機は、15年度におけるロボット事業の売り上げ1541億円を25年度までに倍増の3000億円に引き上げる考えを固めている。同社はロボットの実機体験ができるロボットセンターの拡大を進めており、15年度も4カ所を開設し、センター総数はグローバルで35カ所となっている。今後も工場新増設は確実に進めていく考えだ。15年11月に発表した「MOTOMAN-HC10」は、安全柵なしで設置可能な人共存型ロボットであり、これが今や世界のモノづくりの現場で多くの注目を集めている。

 そしてまた、世界における自動車のチャンピオンであるトヨタ自動車は、2000年から本格的にパートナーロボットの開発を進めてきたが、12年に発表した生活支援ロボットHSRが何とロボット国際大会の標準機になった。また一方、家庭用ロボットにおいてはソフトバンクのペッパーが事実上、世界の標準機になりつつある。産業用ロボットで圧倒的に強いニッポンは、家庭用ロボットにおいてもいよいよ世界のデファクトスタンダード(事実上の標準)を掴み取りに入ってきたのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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