電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第172回

極小化限界に直面するMLCC


高機能化により競争力維持

2016/11/11

 半導体に関わっていて「ムーアの法則」を知らない人はまずいないだろう。回路の微細化により半導体の集積度が増していくことを表したものだが、技術的ハードルの高まりやコストの増大によりいずれ限界を迎えると言われて久しい。足元では2021年がその時とされているようだ。

 一方、電子部品の世界に目を向けてみると、似たような壁の存在に気づく。デジタル家電、PC、スマートフォン(スマホ)と電子機器の小型化・高機能化トレンドによって発展してきた電子部品が、転機を迎えているのだ。本稿では小型電子部品の代表格である積層セラミックコンデンサー(MLCC)にスポットを当て、電子部品メーカーが直面している新たな課題とその対応策を見てみる。

ボリュームゾーンは1005から0603へ

 まずMLCCのサイズトレンドを振り返ってみよう。図1を見ると、1990年代後半に登場した0603サイズ(0.6×0.3mm)が一貫して伸び、16年以降には最大ボリュームを占める見込みである。また、それを追うように0402サイズ(0.4×0.2mm)も増加している。この流れを牽引してきたのは電子機器の小型化・高性能化に伴う電子部品の小型化ニーズと搭載数の増加であり、特にフィーチャーフォン(従来型携帯電話)からスマホへと進化を遂げてきた携帯端末の役割が大きい。14年には現行最小世代である0201サイズ(0.25×0.125mm)が量産化された。

図1 MLCCのサイズトレンド(出典:村田製作所)
図1 MLCCのサイズトレンド(出典:村田製作所)

 1005サイズ(1×0.5mm)はここ10年ほど主役の地位を占めてきたが、0603サイズに置き換えられるかたちで今後の構成比率は下がると予想される。10年前には1608サイズ(1.6×0.8mm)から1005サイズへの世代交代が起こっており、この流れが繰り返されているものと言える。

用途が限定される0402、0201サイズ

 では、この世代交代は今後も続くのだろうか。結論から言えば、それが期待できそうにないというのがMLCCの直面している「極小化の壁」である。これは先端小型部品の用途がスマホ用に限定されており、その市場成長が鈍化傾向にあることから今後の大幅な伸びが期待できないことが背景にある。

 図1によると、0603サイズと0402サイズは同じような上昇トレンドにある。しかし、今後は車載機器にも搭載されていくと予想される0603サイズと異なり、0402サイズは用途がスマホを中心とした小型携帯端末に限定されている。将来的な用途の広がりについても、ユーザーであるセット、実装メーカーから前向きな声は聞かれない。つまり、10年後くらいに0402サイズが0603サイズに代わってボリュームゾーンに躍り出ることは予想しにくい。

 その次世代である0201サイズとなると、さらに用途は限られる。スマホの無線通信モジュールやウエアラブルなど、最高水準の高密度、高集積が求められる分野だ。携帯端末の高機能化は今後も進むものの、0603や0402サイズで対応可能な部位についてはこれらの世代が使い続けられる見通しのため、0201サイズの成長は非常にスローペースになるだろう。

部品小型化は0201でストップか

 MLCCの価格は1世代進むごとに1桁上がるとされているため、次世代品の伸び悩みはメーカーにとって悩ましい。だが、さらなる問題として0201サイズを最後に微小化がストップしてしまうのではという懸念がある。前述のとおり0201サイズの用途は限定的で、セットメーカーは必要不可欠でない部位については前世代品を使おうとする。スマホ本体の小型化はストップしており、超小型部品の必然性は薄れている。また、世代が異なればそれに対応した実装技術、製造装置や部材が必要だが、需要が限定的であることがほぼ確実な製品の開発に積極的にリソースを割こうとする装置、部材メーカーはいないだろう。これは実装を受託するEMSにとっても同様で、コストの増大が導入に見合わなくなる。

 以上の理由から、MLCCメーカーは「技術的には可能」としながらも、0201サイズ以下の極小化については否定的だ。スマホの高機能化に伴って搭載個数が伸長することから、MLCC市場の成長そのものは今後も続くだろう。ただし、これまでの成長エンジンであった小型化がストップすれば、遠からず先端極小部品についても海外メーカーにキャッチアップされ、価格競争に陥ることは目に見えている。そうなると国内MLCCメーカーはこれまでの市場優位性を維持できなくなるため、小型化に頼らない市場ニーズ対応を迫られているのである。

特性向上、サイズラインアップ拡充でニーズ対応

 では、具体的にMLCCメーカーはどういった取り組みを行っているだろうか。まず挙げられるのは、サイズ縮小を伴わない高機能化である。MLCCに求められる特性には高容量化、大電流対応、低ESL化、低ESL化などがある。最近の動きとしては京セラが0603、0402サイズとして最高容量を実現したMLCCを開発しており、16年内に量産化する予定である。特性の向上によって、アルミ電解コンデンサーやタンタルコンデンサーからの置き換えも進められている。MLCCの特性向上には誘電体材料や積層構造の見直しが必要だが、これらは依然として改善の余地が残っている。電子情報技術産業協会(JEITA)が15年にまとめた電子部品技術ロードマップでは、20年代半ばにかけて各特性の向上が進んでいくと予想されている。

村田製作所のMLCC(右端が0201サイズ)
村田製作所のMLCC(右端が0201サイズ)
 また、実装面積を変更せずに低背化させる要求がユーザーから強まっている。モジュールなどをより低背化することで、筐体スペースを有効活用できるためだ。特に0402サイズ以下の超小型品において、特性を維持しつつ低背化させるために、MLCCメーカー各社はしのぎを削っている。筐体内を最大限に活用したいというニーズへの対応としては、サイズラインアップの拡充も挙げられる。村田製作所は既存サイズの中間に相当するサイズをラインアップし、より柔軟に筐体スペースをしたいというユーザーニーズに対応している。

次なる主戦場は車載に

 これまで市場をリードしてきたスマホに代わり、MLCCメーカーが次なる主戦場と位置づけているのは車載市場である。自動車の安全性向上や自動運転技術の発展に伴って、電子化がこれまで以上に進展している。それにより、これまで車載電子機器の代表格だったカーナビなどの情報系やADAS(先進運転支援システム)だけでなく、制御系やボディー系においても電子化が進み、MLCCニーズが拡大している。

TDKの車載用高耐圧MLCC
TDKの車載用高耐圧MLCC
 車載用のMLCCは民生品と比べてサイズトレンドが1世代遅れており、ボリュームゾーンは1608サイズ(1.6×0.8mm)で、今後1005や0603サイズが増えていくものと予想されている。今後も小型化ニーズが期待できることに加えて、車載用途特有の高信頼性、耐熱性、耐久性要求が強い。さらにはAEC-Q200に代表される国際規格への準拠も必須であり、民生品と比べて参入ハードルはかなり高い。逆に、国内勢にとって今後も市場優位性を発揮できるフィールドであると言える。この市場ニーズに対し、MLCCメーカー各社は特性の向上に加えて、搭載個所に応じた様々な特徴を持たせたラインアップを展開している。例えば、エンジン制御系向けの高耐熱特価品や、外部電極に樹脂を採用してクラックを抑制した品、撥水加工品などである。

 大手MLCCメーカーのうち、TDKは民生から車載や産業機器分野に特化する方針を明確に打ち出したことで特筆される。民生と車載を両輪で取り組んでいる競合他社の動きとは明らかに一線を画すものと言え、リソースを集中させた同社が今後、車載MLCC市場で台頭してくるかどうかが注目される。

電子デバイス産業新聞 大阪支局 記者 中村剛

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