電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第207回

働く株主を前面に出す「みさき投資」のユニーク戦略を見よ


~日本企業の可能性を徹底的に追求し、活躍のステージ拡大に注力~

2016/11/4

 「日本の上場企業株式のみに少数厳選投資をしています。投資先は10~15社で、決して増やしません。どちらかといえば、世の中から注目されていない枯れた地味系の会社を好みます。また、グローバルに強い会社にも注目します」

 こともなげにこう語るのは、みさき投資(株)(東京都港区南青山5-11-1 櫻井ビル3F、Tel.03-6427-7431)にあってチーフ・エンゲージメント・オフィサーの任にある新田孝之氏である。新田氏は兵庫県明石市の出身で、北海道大学で高分子化学を学び、修士課程を経て25歳で青年海外協力隊に3年間勤務したという経歴を持つ。ちなみに父親はパン屋の職人であった。「ゆるがない」「ぶれない」「怒らない」を信条とする父親の姿は、現在の投資運用という厳しい世界にあっても新田氏を支えている精神的支柱なのだ。

 「青年海外協力隊の勤務後にコーポレイトディレクション(CDI)というコンサルティング会社に6年半勤務しました。2005年からはあすかコーポレイトアドバイザリーに移り、13年10月に設立された運用会社のみさき投資の仕事に就くことになりました。みさき投資の代表である中神康議はCDI以来ずっと一緒に仕事をしていますが、彼の思想に共感したことがコンサルティング業界から運用業界に移ってきた理由です」(新田氏)

 さて、みさき投資は「働く株主」投資をスローガンとしている。つまりは単なる配当金だけを当てにしている株主ではなく、アクティブに投資した企業とともに働く株主を目指しているのだ。この場合、よく言われる「物言う株主」ではなく、コンサル的に動き、事業戦略もともに考え、資金手当てが必要なら第三者割当もやる、というかなりユニークな投資戦略を貫いている。

 「父親がシャープに勤めていた関係から3歳から大学卒業までをアメリカで過ごしました。コーネル大学でコンピューターサイエンスを学びました。音楽にものめり込み、サックス奏者になりたいため、ジュリアード音楽院も目指しましたが、残念ながら落ちました。80年代後半のことですが、アメリカの若者たちから見て、日本という国および日本人はすごいという思いでした。それゆえに、大学卒業後は迷わず日本で就職しようと思ったのです」

みさき投資 新田孝之氏(左) 後藤正樹氏(右)
みさき投資 新田孝之氏(左) 後藤正樹氏(右)
 こう語る後藤正樹氏は英語が堪能であり、日本語はかなり苦手という日本大好き青年であり、現在はみさき投資のCIO兼ポートフォリオマネジャーを務めている。1992年に日立製作所に入社し、青梅デバイス開発センターで半導体の故障解析の仕事に就き、4年後にはもう一度アメリカに戻り、ビジネススクールでMBAを取得する。98年に再び日本に行き、ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券の仕事を経てヘッジファンドの世界に飛び込む。後藤氏はいわば天才肌の人であり、2回も飛び級をして19歳で大学を卒業しているのだ。この後藤氏がほれ込んだ会社もまた、みさき投資なのである。

 「これまでに出資している会社としてはサカイ引越センター、キトー、サンゲツ、平和不動産などがあります。地味ではあるが、その分野で圧倒的にシェアが高いカンパニーが狙い目です。その会社の価値に投資をしているのです。激しい売り買いは全く好みません。いわゆるネット系の会社にはほとんど投資しません。3~5年間は我慢して保有を継続します」(後藤氏)

 みさき投資の考え方は実にユニークといえるだろう。何しろ「悪い決算が出たら買い」という判断を大切にしており、注目を集めない会社こそ宝物とみているのだ。

 「一時期は日本悲観論が横行していましたが、私たちは全くそう思っていません。日本の企業には現場の強みがあり、モノづくりの細やかさがあり、グローバル展開できる土壌もあります。何よりも素晴らしいのは、日本の場合、下に行けば行くほど現場の人材が優秀ということです。それなら、上の方の人たちをうまく動かし、力を解き放てば一気に日本企業は浮上するとの思いで出資し、アクティブな株主として動いているのです」(新田氏)
 
 ちなみに新田氏は哺乳瓶で国内シェア80%を持つピジョンの社外取締役も兼任している。ピジョンの時価総額は05年当時に300億円であったが、現状では3600億円に跳ね上がっており、海外売り上げは05年当時に15%であったものが現在では50%まで拡大している。日本の本当に良いものはグローバル展開しても成功するという証左なのだといえよう。

 「今後の方向としては投資先の数は増やしません。ただ運用している金額がまだ300億円程度なので、これを2000億円に増やしていきたいと考えています。私は海外で育っただけに日本人の持つ潜在力がよく分かります。米国人に日本人の印象を聞けば、“実に謙虚”“マナー、礼儀がある”“おもてなし精神にあふれる”“技術開発力も抜群”という印象を常に聞くことになります。日本には無限の可能性があると真剣に考えております」(後藤氏)

 はてさて、毎日のように日本という国家および国民の誹謗中傷を垂れ流す一部のマスコミの諸君は、このみさき投資の人たちの談話をどう考えるのであろうか。

 


 


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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