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市立豊中病院 精神科部長 宮川真一氏


総合病院で全国初の合併症専用精神科病棟開設、身体科主治医と精神科医が協働する病棟実現

2016/9/6

セミナーを行う宮川真一氏
セミナーを行う宮川真一氏
 地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区港島南町2-1-1)は、8月1日に増築棟として北館と南館を供用開始した。北館の救命救急センターに精神科身体合併症病棟(MPU)を8床増床するなど、救命救急の医療体制を強化している。供用開始前の7月31日に開催された、北館・南館の完成記念会では、関係者らの挨拶のほか内覧会を開催した(前号参照)。また、精神科と救急科に勤務する現役の医師2人を講師として迎え、セミナーを2部開催した。
 セミナーの第1部では、市立豊中病院(大阪府豊中市)の精神科部長 宮川真一氏が「総合病院精神科合併症病棟の挑戦~小さな病棟で大きな貢献を~」をテーマに、沖縄県立病院で経験した事例を元にセミナーを行った。(第2部は次号掲載予定)

◇   ◇   ◇

◆精神身体合併症医療は総合病院精神科の責務
 以前から、精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の医療をどのようにすればよいかという問題があった。まず、現状はどのような病院で治療を行っているか、精神疾患と身体疾患の処遇モデル(合併症治療モデル)について事例を挙げた。大きく4つあり、(1)精神科のある総合病院、(2)総合病院精神科病棟、(3)精神科病院一般病棟、(4)身体科のある精神科病院に分けられる。精神疾患や身体疾患の重症度で主に判断されるが、どちらも重症となれば総合病院での治療が最も適切となってくる。しかし、両方を備えた病院の数は少なく、兵庫県でも公立の豊岡病院(豊岡市)や各大学病院しか思いつかないのが現状だと述べた。

 特に一刻を争う救急要請の場合は、課題が山積している。救急は、一般救急情報センターと精神科救急情報センターの2本の柱で成り立っているため、連携不足から身体疾患なのか精神疾患なのかを判断できず、救急車がたらい回しになって亡くなることもあるという。これを解消するために、新たな病棟の設置が急務であった。

◆身体科の主治医と精神科医が協働する病棟を
 宮川氏は、2006年から「沖縄県立南部医療センター・こども医療センター」(沖縄県南風原町)の精神科部長として勤務し、総合病院で初の合併症専用精神疾患病棟の開設に尽力した。どのような病棟を開設すればよいか、様々な問題を考えたという。

 重症急性期医療では、身体疾患の患者の治療を中心に行っているのが現状。合併症患者のケースでは、もともと精神疾患があり、身体疾患を併発する場合が大半で、その逆のパターンは少なかったため、問題は精神疾患を持つ患者の身体治療であることが明らかになった。これに、精神科の閉鎖病棟の要素をプラスした病棟の開設を計画した。これを通称でリエゾン(協働)精神病棟と呼んでいる。

 急性期身体医療としての身体重症に対する総合病院の強みと、閉鎖病棟としての精神重症に対する精神科の強みを生かしたリエゾン専門の精神科病棟「リエゾン精神病棟」(リエゾン患者で精神症状が最重症の患者を集めた病棟)が特徴となっている。少ない医療資源でも運営できるのが強みでもある。

 具体的に、リエゾン精神病棟は身体合併症専門病棟の機能として、身体管理は身体医が行うため少数の精神科医で運営できるメリットがある。また、総合病院での身体重症急性期に対応するために、精神科と身体科各科のチーム医療を行い、短期入院を促進できる。加えて、閉鎖病棟の機能面で、精神重症では興奮、自殺、自傷に対応する。これにより、一般科と同程度の収益で運営でき、経営効率がよかったという。

◆救急部門・総合診療科との院内協力
 沖縄県立病院の事例では、通称リエゾン精神病棟であった精神科身体合併症病棟(MPU)を一般病棟のフロアに5床(閉鎖病棟)設置した。精神疾患患者は、すべてMPU入院しなければならないわけではなく、重症度など症状に合わせて一般病棟での入院も行った。

 宮川氏が携わった5年間(07年4月~12年3月)の治療実績は、入院患者数678人(男性426人、女性261人)で、入院形態は医療保護が491件、任意が179件、措置が17件であった。平均入院(在院)は13日で中央値は9日と、当初懸念されていた長期入院は少なく、短かったという。なお、平均入院単価は4万3187円(11年度実績)であった。

 診療について、精神科診断では、統合失調症の患者が最も多く全体の55.7%であった。身体疾患の診療では、一般と変わらず骨折などのケガ・傷のほか、消化器系疾患、呼吸器系疾患が多かったという。

 院内の連携では、救命救急センターからの入院が全体の8割を占めた。このうち救急入院患者の2~3割がMPUに入院した。救急以外の明白な自殺企図は5年間で84例あった。

 上記のように救命救急センターで最初に受け入れる場合が大半であったため、そこから精神科病棟や一般病棟にセレクトして振り分けられた功績が寄与し、5床の病棟でも円滑な運営が行えた。夜間の救急入院でも、朝まで救急入院室で救急科医が担当し経過観察するため、精神科医が夜間に呼び出される事例はほとんどなく、少ない精神科医の体制でも運営できた。

◆地域の精神科医療施設との院外連携
 では、身体疾患の治療が一段落してからはどうするのかが課題であったが、これも院外の精神科医療施設と連携を図ることで解消できた。従来精神科に通院および入院している患者が約80%おり、身体疾患の治療を終えるとそれぞれの主治医の在籍する医療施設へ転院していくケースが多かった。そのほか、大学病院、精神科病院リハビリ病棟、精神科診療所、一般病院などへ転院および通院する事例もあった。引き続き、精神科で治療できる体制が整っていたといえ、地域で精神疾患の患者を支えようという精神科医の医療体制に救われたと熱く語った。

 最後に、沖縄県立病院で経験した中で重要だと感じたこととして、「救急医療との連携が重要だ」と述べた。セミナーを行った神戸市中央市立病院では、MPUを救命救急センター内に設置しているため、今後の連携が期待できるという。

【宮川真一氏】1985年に筑波大学医学専門群卒業、沖縄県立中部病院臨床研修医、その後、国立療養所琉球病院、国立精神神経センターなどを経て97年に市立豊中病院精神科の医長・部長、06~13年沖縄県立南部医療センター・こども医療センター精神科部長(総合病院で初の合併症専用精神科病棟を開設)、14年に市立豊中病院精神科部長に復帰、日本総合病院精神医学会理事、大阪大学医学部臨床教授
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