電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

タッチパネル「混乱期だからこそチャンス」


~第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」開催(5)~

2016/7/29

主席アナリスト 大井祥子氏
主席アナリスト 大井祥子氏
 大手調査会社のIHSは、7月27~28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに全5回にわたって聞く。第5回は「タッチパネル市場」を担当する主席アナリストの大井祥子氏に主要テーマを伺った。

 ―― タッチパネル市場の現状から伺います。
 大井 タッチパネル需要の7割を占めるスマートフォン(スマホ)向けにおいて、外付け(アドオン)市場は集約期にある。インセル/オンセルといったエンベデッド技術がスマホのミドルレンジにまで普及しつつあり、供給も潤沢で、付加価値も下がってきた。2016年は、LGディスプレーのAIT(Advanced In-cell Touch Technology)に代表される一層タイプのインセルがローエンドの低温ポリシリコン(LTPS)に採用され、普及に加速がつく。IHSの予測では、16年にエンベデッド型がタッチパネル全体の41.3%まで普及し、18年には50%を超えると予測している。これに伴い、当然のようにアドオン型の値下がりも進んでいる。アドオンを置き換えるエンベデッドにとっても厳しい市場といえる。

 ―― この前提において何で生き残りを図るかが重要になりますね。
 大井 2つある。(1)フレキシブル化への対応、(2)車載だ。いずれもまだ過渡期だが、センサー技術を搭載するにあたって、他の部材と融合し、新たなサプライチェーンが形成されていくとみている。

 ―― (1)について。
 大井 当面は有機ELへの対応がメーンになる。有機ELに対してはリジッドパネル+アドオンがオンセルに代わり、フレキシブルパネルでも同様の流れが起きてきた。現状では、サムスンはバリア層を成膜し、LGはバリアフィルムを貼るという違いがあるが、後者に関してはバリアフィルムにセンサーを直接形成する。まだ歩留まりに課題があり、低温成膜などの要素技術が求められるが、薄型化という点では理想的だ。

 ―― バリアフィルムに採用される材料は。
 大井 従来はPETが主流だったが、耐熱性に優れたCOP(シクロオレフィンポリマー)とポリカーボネートが入ってきており、なかでもハンドリングしやすいポリカが増えてくるとみている。ポリカはこれまで車載用の抵抗膜式などに採用が限られていた。

 ―― 偏光板にセンサーを形成する手法も登場していますね。
 大井 日本写真印刷の「Mid Cell」だ。位相差フィルムを含めた偏光板にセンサーを形成するというもので、これに近い構造が次世代iPhoneに採用されるとの憶測も流れている。
 ただし、偏光板はこれまでタッチセンサーのサプライチェーンに入っていなかった部材であり、プロセスの段取りや歩留まりの責任の所在をどう管理するのかが新たな課題になる。

 ―― (2)については。
 大井 前述の課題が車載でも浮上している。なぜなら、内装を美しくしたいというデザインの観点から、車載用ではカーブドやフレキシブルがいきなり必須となる。しかも品質要求は民生用電子機器より厳しく、小ロットで長期の供給を求められるため、需要と供給、技術を取りまとめて自動車メーカーに提案するには、それなりの規模の企業が手がける必要がある。中小メーカーが参入しづらい構図だ。

 ―― 車載用ではやはりフィルムセンサーが主流になるでしょうか。
 大井 確かに曲面加工の観点ではプラスチックのカバー材料の方が優位性がある。そしてフィルムセンサーはガラスセンサーよりもプラスチックカバーとの親和性が高いと言われている。自動車の内装デザインが複雑化するトレンドにあるため、フィルムセンサーの需要は伸びていくとみている。ただし、ガラスカバーもカーブド対応を進めつつあり、ガラスメーカー自身が加工や印刷技術を身につけ内製化してきている。ガラスカバーも曲面対応が可能になると期待されている。

 ―― 日本メーカーにとってはビジネスチャンスが増えそうに思います。
 大井 ディスプレーでもタッチパネルでも日本の部材サプライヤーは強く、フィルムや接着剤、加工技術どれを取ってもチャンスが増えるメーカーは日本にたくさんある。市場の混乱期は逆にチャンスが多いときでもあり、自動車メーカーからの難しい要求にも慣れている点でも日本メーカーが活躍する場が広がっていくはずだ。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
http://www.cvent.com/events/31st-ihs-display-japan-forum/event-summary-9f97d28cf3a54a92a143df2f3670badc.aspx?Refid=IHSSITE
サイト内検索