自動車部品は開発状況期間が長いため、短期間でサプライチェーンに食い込むことは困難だが、この10年間で90億ドル(約1兆円)の売り上げ増があったことは事実であり、自動車向け半導体の開発に活路を模索する半導体メーカーは枚挙にいとまがない。
IHSでは、この市場に参入するメーカーを国籍別に分類した。国籍別半導体メーカーシェアでは、15年は欧州メーカーのシェアが42%にまで上昇した。シェア2位は米国メーカーで、3位は日系メーカーとなった。特筆的な欧州メーカーのシェアアップは業界最大規模の企業合併によるものだ。この合併でフリースケールがNXPに吸収され、米国メーカーから欧州メーカーにシェアが移行した。
一方で、12年までは欧州メーカーとトップの座を争っていた日系メーカーのシェアは翌13年より3年連続で減少に転じた。米国メーカーにも抜かれ、シェアは3年で10ポイント下落した。
■車載半導体のトップ集団、その内容は
続いて、自動車市場における個別半導体メーカーの業績と取り組みについて分析を行った。
3つ目のグラフはトップ5社の売り上げを示したものだ。15年はNXPが2位以下を大きく引き離し、売り上げ単独首位に躍り出た。飛躍的な伸びの理由は前述のとおり、フリースケールの吸収である。NXP×フリースケール連合は、自動車向けロジックとMCUで実績のある代表企業同士の大型カップルである。したがって、将来もキーデバイスの囲い込みや自動車産業との強固な関係が続くことは必至であり、最も業界に大きな影響を与える存在として目が離せない。
2位には僅差でインフィニオンが滑り込んだ。同社は自動車用IGBTやドライバーICなどで実績が高く、パワー半導体で着実に業績を伸ばした。3位のルネサスは、日系自動車メーカーに深く浸透するMCUを生産する。直近の熊本地震でも、東日本大震災でもMCU生産に穴が開き、日系自動車メーカーの生産に影響を及ぼした。10年に同社はNECの吸収で売り上げ世界1位の座に就くも、5年で2つ順位を落とす結果となった。
また、トップ10社の売り上げシェアはこの10年で増え続けていることも注目される。トップ10社には日系メーカー2社、欧州メーカー4社、米国メーカー4社が含まれる。最後の図ではトップ10メーカーの売り上げと圏外メーカーの売り上げを比較した。06年はトップ10社の売り上げは45%であったが、15年には62%にまで上昇している。
この理由も、前述のように大手企業がキーデバイスを囲い込み、開発体制や自動車メーカーとの関係で優位なポジションを獲得していると考えて良さそうだ。
自動車産業におけるサプライチェーンは長い時間のなかで構築された固定的な関係が主軸である。自動車部品は開発期間が長いため、短期間にサプライチェーンが入れ替わることは稀で、構図を崩すのは容易でない。しかし、様々な半導体を必要とする今後の自動車産業は、半導体産業との関係では新時代に入るとも予想される。
例えば、Infotainment : Connectivity&Telematics分野では、先進的な自動車メーカーやティア1がザイリンクス、インテル、エヌビディアなど、自動車市場では馴染のなかったメーカーを採用する例も出ている。これは、自動車市場での実績がなくとも、自社のテリトリーで一時代を築いた実力者であれば自動車メーカーはその価値を認め、そうしたメーカーの起用と車載市場参入のきっかけ作りをサポートするという新たな動きだ。
自動車用半導体市場は電動化や自動運転技術を背景に拡大の一途を辿るだろう。そこには新たな競争とメカニズム、覇者を生み出すエネルギーが宿り始めている。
IHS Technology 主席アナリスト 李根秀、
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