電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第151回

第2ステージに突入、FOWLP市場


~Samsung、ASEも本格立ち上げへ、市場は「InFO」依存から脱却

2016/6/17

 半導体パッケージの新しい技術・製造方法として、FOWLP(Fan Out Wafer Level Package)が注目されて久しい。基板レス化によるコストダウン、低背化、低反り化を実現できる技術として注目を集め、iPhoneにも採用される2016年はFOWLPの本格離陸の年といっても良さそうだ。電子デバイス産業新聞ならびに、本稿の「電子デバイス新潮流」でも過去にFOWLPを取り巻く市場環境をレポートしてきたが、改めてFOWLPの現在地点を総括してみたい。

FOWLP開発・採用状況

 FOWLPはWLPの派生技術だ。チップサイズと再配線領域が同一サイズである旧来型のFan in構造のWLPに対し、FOWLPはチップサイズよりも再配線領域の方が大きく、Fan in構造のWLPでは適用が難しかった多ピンパッケージにも対応することができる。そのため、製造工程も一度プロセス後のウエハーを個片化、支持基板に再配置するといったFan in構造のWLPにはない工程を踏むことになる。

 これまでにも、FOWLPは将来性が高い技術として注目を集めてきたが、低歩留まりなどを理由に、市場は想定したほど大きくはならなかった。しかし、周知のとおり、AppleがiPhoneのアプリケーションプロセッサー(AP)にFOWLP技術の採用を決断。台湾TSMCが開発した独自のFOWLPである「InFO(Integrated Fan Out)」を今年9月に発売予定の「iPhone7」に全面的に採用することが確実視されている。TSMCの本業は前工程(ウエハープロセス)の生産を受託するファンドリーであるが、近年は先端パッケージ分野にも進出。Appleのニーズにパッケージ分野から応えることで、前工程から後工程までのフルターンキーでの受注に成功。従来、AppleのAPの受託生産はTSMCと韓国Samsungが受注を分け合っていたが、今年に限ってはInFOの存在もあり、TSMCが全量受注を勝ち取ったもようだ。

 ちなみに、TSMCでは今後、InFOビジネスをさらに広げていく考えだ。今回のiPhone7に採用されるInFOが第1世代と位置づけられており、今後第2世代の本格展開も視野に入れる。具体的にはさらなるファインピッチ化に加え、現在、ボトムパッケージの上部に積層されているDRAMのパッケージのInFO化、さらには現在別パッケージでメーンボードに実装されているベースバンドプロセッサーをAPと同じパッケージ内に収める「マルチチップInFO」などが検討されているもようだ。また、樹脂材料も現状の液状タイプから顆粒タイプへの移行を検討しており、低コスト化も同時に進める。

WLP装置売り上げ3倍超に

 InFOの本格立ち上げは、装置・材料業界にも恩恵をもたらしている。TSMCはファンドリーが主力事業であるため、今回のInFO生産ラインの構築にあたり、後工程装置を一から構築する必要がある。そのため、特需的なかたちで後工程装置メーカーに対する発注が行われている。ダイサーやバックグラインダーが主力のディスコは「ファンドリー顧客からの大型の受注」があったことを認めており、1~3月および4~6月の売上高にこれが反映されているという。

 また、半導体用モールド装置大手のアピックヤマダもInFO特需を受けた。同社は以前からFOWLP用モールド装置を手がけており、同分野ではパイオニア的存在。15年度(16年3月期)売上高のうち、半導体モールド装置などで構成される電子部品組立装置事業の売上高は、同10%増の86億円と増収を確保。なかでも、WLP装置の売上高(単体ベース)は同3.2倍の29億円と大きく拡大している。また、リソグラフィー装置では米Ultratechが大型受注を確保しているほか、テスターでは米Teradyneが競合のアドバンテストとの競争に勝ち、数百台規模での商談を獲得したもようだ。材料分野でも、再配線用保護膜などに使われるポリイミドを供給する旭化成などがこの恩恵にあずかっているようだ。

競合メーカーの姿勢にも変化

 iPhoneにFOWLPが本格採用されることで、市場に対する見方も徐々に変化しつつある。Appleはハイテク業界におけるテクノロジートレンドをリードする存在であるのは周知のとおり。Appleが採用すれば、他のスマートフォンメーカーなどもこれに追従する流れは、これまでに何度も目にしてきた。

 InFOに対して、当初業界内で懐疑的な見方も存在していたが、iPhone 7に全量採用される見通しが立ってきたなかで、競合メーカーの姿勢にも変化が見受けられるようになってきた。

SamsungはパネルレベルのFOパッケージ開発に力を入れる
Samsungはパネルレベルの
FOパッケージ開発に力を入れる
 その際たる例がSamsungだ。同社はもともと、FOWLPに対しては消極的な姿勢を示しており、既存技術のPoP(Package on Package)の延命化に自信を見せていた。しかし、ここにきてFOWLP開発において社内プロジェクトを立ち上げるなど、態度を変え始めている。具体的には、傘下の基板メーカーであるSEMCO(サムスン電機)と協業するかたちで、パネルレベルのFOパッケージ(FOPLP)を前提とした開発を進めているようだ。SEMCOは基板メーカーであるため、所有する基板製造インフラをグループ内で有効活用するという意図も含まれている。


 Samsungは6月20日に投資家・アナリスト向け説明会を開く予定で、ここで今後のパッケージ戦略について詳細を語るとみられる。

 Samsung同様に、OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly&Test)最大手の台湾ASE(日月光半導体製造)もFOWLPに対する取り組みを強化している。16年5月に、米Cypress Semiconductorのグループ会社でFOWLPなど先端パッケージの開発・製造を行うDeca Technologies(米アリゾナ州テンピ)に6000万ドルの出資を行うと発表した。Deca社独自のFOWLP技術を取得することで、市場拡大が見込まれる同分野での事業拡大を急ぐ。

 Deca社は09年に設立されたWLPの受託生産サービスを手がけるOSAT。11年から事業を開始しており、15年6月には累計で5億個のWLP製品の出荷を達成したと発表した。生産拠点はフィリピン・ラグーナ州の大手太陽電池メーカー、米サンパワー社の工場内に構える。サンパワーはDeca社の出資企業の1社。

 ASEは一時、InFOのバックアップ先として白羽の矢が立つと目されていたが、これに対しては今のところ消極的だ。TSMCのInFOプロセスは歩留まりの影響などからコスト高に直面していると見られ、同工程だけでは利益を生み出せる状況にない。しかし、同社はフルターンキーでAppleビジネスを受注しているため、利益率の高いウエハープロセス受託を含め、全体で利益が出れば良いという発想を持っている。これに対し、ASEは後工程専業のため、パッケージ・テスト工程で確実に利益を生み出さなければならず、TSMCとは立場が違う。よって、現状のコスト・歩留まりではASEはInFOに手が出せないという見方がある。

 ASEは拡大するFOWLP市場に対し、即効性のある技術を手に入れるべく、今回Deca社への出資を実施。早期に事業拡大を図っていきたい考えだ。また、OSAT業界2番手の米Amkor Technologyも現在、韓国・仁川に建設中の「K5」で独自FOWLPの「SWIFT(Silicon Wafer Integrated Fan-out Technology)」の立ち上げを進めている。今後はこれまで協業関係にあったOSATとTSMCが、FOWLP市場の土俵では一転して競合関係に変わることになりそうだ。

 TSMCのInFOへの依存度が強かったFOWLP関連業界。しかし、ここにきてSamsungやASE、Amkorなどの他プレーヤーも一気に攻勢をかけてきたことで、市場が一気に活気づいてきた。TSMC、Appleという特定顧客、特定用途に限られていた時期を第1ステージとするならば、現在は第2ステージに突入した段階といえるのでないだろうか。半導体パッケージがすべてFOWLPに置き換わるわけではないが、今後数年かけて一定のポジションを築くことになるのは間違いなさそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

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