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鳥伝白川会 理事長 泰川恵吾氏


最前線の在宅医療を講演(2)、訪問看護はチーム力

2015/11/10

泰川恵吾氏
泰川恵吾氏
 Dr.GONこと(医)鳥伝白川会理事長の泰川恵吾氏が講演したセミナー「在宅医療最前線‐離島と都市部で活動するDr.GONシステム-」を紹介する連載2回目は、宮古島で受け持っている患者についてや、宮古島の貧困、医療と介護をつなぐ訪問看護、在宅患者に対する医療適用、離島医療における大切なことなどの内容を紹介する。

◇   ◇   ◇

◆宮古島で受け持つ患者の病例を紹介
 泰川氏は、写真を交えながら、自身が診ている未治療のハンセン病、皮膚がん、低温熱傷、リンパ浮腫、アリ咬傷などの患者を紹介した。例えば低温熱傷の患者は、高齢者で温度を感じにくいこともあり、8月の猛暑で気温35℃以上にもかかわらずストーブをつけた部屋で一晩過ごしたため、切断が必要なほどの低温熱傷になってしまった。病院に連れて行ったところ、切断が必要と言われたが、断固として切断を拒んだため、植皮手術を行い改善したという。リンパ浮腫の患者は、マラリアやフィラリアが原因ではなく、手術によって発症してしまい、当初は医者からの治療を拒否していたが、泰川氏の人柄の良さもあり、最終的には治療を受け入れ、最期を看取ることができたという。

◆医療費1割負担でも宮古島では大変なこと
 泰川氏はこれらの現状を、沖縄県の貧困が一因だと指摘する。沖縄県は徳島県に次ぐ貧しい県で、示された個人所得の表では、沖縄県は200万円を若干上回る程度。その中でも、宮古島市は基本的に沖縄県の個人所得を下回っている。泰川氏の「医療費の1割負担は、東京では余裕かもしれないが、宮古島では余裕はない」という言葉が現実味を帯びる。講演中に放映されたビデオでは、宮古島の高齢者の現状を映した。足が不自由で極端に栄養状態が悪く寝たきりになってしまった女性は、現金収入はないものの、小さな家と牛2頭が財産と見なされ、生活保護を受けることができない状況が映し出されていた。また、生活保護は基本的にあらゆる情報を得て要領よく行わなければ受けられないサービスで、当然寝たきりの女性には行えないことであり、それは福祉といえるのかと泰川氏は介護保険などの様々な問題を指摘した。

◆訪問看護のチームも診療に不可欠な存在
 泰川氏は、上記のような患者をフォローしていくには医者だけでは駄目で、訪問看護のチームが必要であると強調する。ドクターゴン診療所では、宮古島、鎌倉それぞれの診療所で組織しているが、チームはバイタルサイン測定、じょく瘡などの処置、輸液や注射、リハビリ、服薬指導など医療的な看護と、入浴や清拭、環境整備、食事介助、家事援助、話し相手や外出援助、見守りなどをつないでくれるありがたい存在と位置づけている。
 さらにドクターゴン診療所には理学療法士や作業療法士も働いている。訪問看護のチームが活躍している事例として、宮古島では離島でしかできないリハビリとして脊髄損傷の患者を水中用車椅子に乗せてシュノーケリングさせる「海のリハビリテーション」を行ったことがある。この患者はじょく瘡もひどく、09年から訪問診療している。13年になっても全く治らなかったが、14年に海のリハビリテーションを行ったところ、2カ月で劇的に改善し、今年も1回行ったところ、じょく瘡が閉鎖した。これを見た泰川氏は、どんなに優れた技術も薬もそれだけでは病気を治癒することができない。すべての病は気からだと思うようになったという。リハビリテーションは本来のあるべき姿を取り戻すことが大事で、こういう面で訪問介護のチームのマンパワーが必要であると考えていると述べた。

◆コンパクトな医療機器を訪問診療で持参
 続いて泰川氏は訪問診療で持参している医療機器をいくつか紹介した。オートバイ診療用診療パックだけでもちょっとした手術ができる装備だという。具体的な医療機器としては、超音波診断装置のVscan以外にノート型PC、心電図では、ノートPCで診られるコンパクトな十二誘導心電図、さらにコンパクトな脈だけを診られる一誘導心電図を保有している。そのほか、心不全など色々なパラメーターを診ることができるコンパクトな「h 232」、血液ガス分析装置などを、すべてではないがその都度組み合わせを変えて訪問治療で持参している。
在宅診療では喉頭ファイバーなど様々な医療機器を携帯する
在宅診療では喉頭ファイバーなど
様々な医療機器を携帯する
 近年では食べ物をのどに詰まらせてしまう患者が多いため、喉頭ファイバーもよく持ち歩いており、治療だけでなく今後の患者の食事方法も考案している。また、人工呼吸器も近年では高性能なものが出てきており、例えば、泰川氏が受け持つALSを発症している患者は、優れた性能の人工呼吸器のおかげで自宅療養が可能になったという。腹水を抜いて濃縮ろ過をかけて身体に再び戻すCARTも有効である。

◆目的によって治療の適用を考えるべき
 例えば、点滴で高カロリーを注入するHPNを行わなければならない場合、泰川氏は水分と栄養の補給、生命維持、本人または家族の不安への対応、末期状態における方針決定までの対応などに関しては絶対に適用すべきだと考えているが、介護スタッフや医者が患者に何かしていなくてはいけないという不安から行われる場合も多い。
 そこで泰川氏は、「在宅患者に対する治療適用として、(1)医学的必要性の有無、(2)緩和ケアとしての必要性の有無、(3)患者や家族にとってのメリットの3点を適切に判断して適用を決めるべきだ」と強調した。また、「点滴の針1本を刺すことも患者にとっては苦痛だと思う。準備のない急変では救命の努力をするのが当然だが、看取りの場面では、医療者には『無効な治療をしない意義』を、家族と患者に説明する強い意志が求められる」と続ける。

◆看取りは人生の卒業である
 泰川氏は、そもそも医療行為の目的として、救命(失いそうな命を救う)、生命維持(不安定な命を維持する)、看取り(人生の最後を看取る)の3つだと考えているという。救命と延命は生命維持の期間では区別できず、例えば0歳の子供を救命しても90年ほど延命したに過ぎないが、看取りは人生の卒業ではないかと考えており、目的によって治療の適用を考えて医療を行っているという。

◆離島医療は楽しくやるべき
 泰川氏は最後に、離島医療において大切なことを説明した。離島医療は、看取りなどの場面において非常にプレッシャーがきついが、その島に人が住んでいる限りは、安定して継続することが大事だと語る。また、刹那的な感情論だけでは長期の継続は不可能だと断言する。「よく2~3年だけ離島診療を行う医者がいるが、かえって迷惑であり、それならば来ないで欲しい。一生をかけて行うべきだ」と離島診療に人生をかける覚悟の有無を訴えた。さらに、医療を提供する側が地域の中で快適に生活できなければならない、消耗戦は絶対に避けるべきであると続けた。離島医療を楽しむことができなければ長続きせず、無理して詰めても2~3年だけ頑張って辞めてしまうため、次の医者を探すのが大変なのでかえって迷惑だという。
 そこで、ドクターゴン診療所では、ダイビングショップを開設してスタッフは無料で潜ることができる、ジェットスキーの耐久レースに出場する、マラソンに出場するなど、楽しく離島医療を行える環境を構築していることを紹介し、講演を終えた。
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