医療産業情報
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

一般財団法人 脳神経疾患研究所 総合南東北病院 理事長・総長 渡邉一夫氏


総合南東北病院の渡邉一夫氏、南東北BNCT研究センターを講演(上)

2015/6/16

渡邉一夫氏
渡邉一夫氏
 JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナーにおいて、一般財団法人 脳神経疾患研究所 総合南東北病院の理事長・総長の渡邉一夫氏は、「福島から“世界初”“日本発”の夢の超先端がん治療 2018年度治療開始を目指しすすむ『南東北BNCT(ホウ素中性子捕捉治療法)研究センター』の整備進捗と今年度の重点取組み」と題して講演を行った。渡邉氏は、9年前に民間病院として世界で初めて陽子線がん治療施設を開設した際にもJPIのセミナーに招聘されているが、今回は、公的、民間を含め、病院として世界初の治療施設の導入となったもので、まさしく最先端の治療技術の最新情報に聴講者は熱心に聞き入った。

◇   ◇   ◇

◆病床1968床・介護保険ベッド1328床運営
 まず渡邉氏は、一代で築き上げ、なおも拡大を続ける南東北グループの概要の説明を行った。南東北グループは、福島県を中心に北は宮城県から青森県に施設を展開するとともに、東京都および神奈川県でも毎年のように施設の新設、増設を行っている。
 グループは7法人を擁し、8病院と10のクリニック・診療所で計1968床の病床のほか、老人保健施設7施設、特養ホーム4施設、障害者施設3施設、ケアハウス2施設で計1328床の介護保険ベッドを運営。最先端の高度医療から介護サービス、在宅支援までカバーする、総職員数6000人を誇る医療・福祉グループを形成している。今年春には、医師98人を含め513人の入職者を迎え入れた。

◆高度最先端医療から在宅支援まで
東北地方のグループ主要病院
東北地方のグループ主要病院
 グループの旗艦である(一財)脳神経疾患研究所 総合南東北病院の前身は、35年前に渡邉氏が開設した60床の脳神経外科の専門病院であるが、現在では、その広大な敷地に南東北医療クリニック、眼科クリニック、約100億円を投じた南東北がん陽子線治療センター、老人保健施設、(福)総合南東北福祉センター八山田、4年前に開設した南東北第二病院(156床)、そして、今回の南東北BNCT研究センターが立地している。
 総合南東北病院は、1日1500人から2000人の外来患者に対応する。放射線治療装置を複数台設置し、近くサイバーナイフが導入される。早期発見、術後の診断に用いるPETセンターの設置台数4台、総額7億円の投資は世界最大。広い敷地内の患者の移動用にマイクロバスが巡回している。また、敷地内では、障害者施設と学童保育施設を併設したセンターを新設するため、現在、設計中であることも説明。医療・介護の一大拠点は、なおも拡大を続ける。
 東北地方では、ほかに、22~23年間にわたり携わった青森県八戸市の(医)謙昌会 総合リハビリ美保野病院(140床)、経営移譲を要請されて運営する(医)三成会 南東北春日リハビリテーション病院(回復期リハビリテーション60床、老人保健施設100床併設)などがある。

◆東京~神奈川でも病院、福祉施設を展開
首都圏のグループ主要施設
首都圏のグループ主要施設
 首都圏においては、慈生会病院を引き継いだ東京都中野区の(医)総合東京病院(350床)、老人保健施設、特養ホーム、ケアハウス、デイサービス、訪問サービス、障害者サービスの施設・機能を備えた日本唯一の(福)総合東京保健福祉センター江古田の森(介護保険329床)、20億円を投じて新大手町ビル地下2階~地上1階部分に開設した(医)東京クリニック、川崎市の(医)新百合ヶ丘総合病院(377床)などがある。
 江古田の森は、職員数300人で、2年目にはベッド稼働率が100%となった。東京クリニックは福島孝徳医師の脳神経外来が受診できる。新百合ヶ丘病院は13年夏に開設したが、2年目に医師が120人となり、1日1000人の外来患者、満床の入院患者に対応し、1日4000万円、月10億円超の収入を得る。
 渡邉氏は、南東北グループの概要を説明した後、南東北BNCT研究センターの説明に移った。

◆病院としてBNCT装置を世界初導入
 脳神経疾患研究所は、再発・進行がんを治療できる「ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy : BNCT)」装置を、病院として世界で初めて導入した。この事業は、東日本大震災からの福島県の復興と医療機器産業の振興に寄与するものとして、経済産業省から福島県を通じての補助を導入して実施している。事業費総額は約68億円で、補助金は4年間(12~15年度)で約43億円(いずれも税別)。
 BNCTは、国立がん研究センターなど複数の施設で実施を目指しているが、装置が設置されて稼働の準備が進むのは、現時点で南東北BNCT研究センターのみとなっている。従来の巨大な原子炉、設備を用いたBNCTは、国内では大阪府熊取町の京都大学原子炉のみで行われている。
 東日本大震災と福島第一原発の事故は、福島県および東北の人々の暮らし、精神面、経済面で大きなダメージを与え、いまだ復興半ばであり、また福島県浜通り地域は医療崩壊状態に陥っている。南東北グループの中核拠点である福島県郡山市では、除染作業などの効果により、放射線量は正常値近くに下がりつつある。
 南東北BNCT研究センターは、11(平成23)年度第3次補正予算で経済産業省 東日本大震災復興関連事業「福島県における医療福祉機器・創薬産業拠点整備事業」の補助金交付が決定され、12(平成24)年3月に福島県が公募を行い、同年4月16日に「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)によるがん治療機器の開発・実証計画」として応募し、同年6月1日に県の採択が決定した。「放射線」に対し過敏となっている人々に、放射線を利用して治療できる新しい技術であり、世界初のプロジェクトでもある。

◆15年度から京都大学と頭頸部腫瘍の治験開始
 南東北BNCT研究センターにおける開発計画の概要として、先行して第I相の知見を実施する京都大学と一体となり、15年度中には悪性脳腫瘍、頭頸部腫瘍の第II相治験を京都大学および南東北BNCT研究センターで開始し、18年には薬事承認を受けて先進医療治療を目指す。
 設備整備に関しては、12(平成24)年度から研究棟建設、BNCT装置の設置および安全性試験を実施し、引き続きハードウエアの整備・調整を実施している。BNCT装置については、2照射室を持ち、治療準備、照射を効率的に行うことができ、設備としては1日あたり6人の照射が可能であることを目標としている。

◆京都大、筑波大、東京理科大と共同研究
 BNCT装置の性能向上試験は、15(平成27)年度に高負荷対応ターゲット材の開発を行う。このターゲットは京都大学の装置の1.5倍の電流値(1.5mA)に耐えられるもので、将来的には治療照射時間の短縮を目指す。加えて、医療スタッフの被曝低減のためのターゲット交換機構および照射室高度化の開発も行う。
 周辺機器開発は、京都大学と筑波大学が分担してBNCT関連技術の開発を行い、その成果を順次導入する。また、次世代製薬などについても東京理科大学が担当し、その成果を順次導入する。

◆「悪性脳腫瘍や頭頸部がんを治療できないか」
 ここで、渡邉氏はBNCTについて、「悪性脳腫瘍や頭頸部のがんは治療が困難であるが、医師として何とか治療できないか」との思いをもって、装置の導入を決めたことを明かした。
 ここで改めて、総合南東北病院とその敷地内に並ぶ南東北BNCT研究センターを含めた施設群の航空写真を眺め、あまりにも広い敷地に施設が立地しているため、「まとめてしまおうという考えもあるが、200億円もの費用がかかるから熟慮中である」と、次の大規模事業にも触れた。
 南東北BNCT研究センターは、13年3月に着工し、14年9月に竣工した。地下2階から地上2階までがBNCTの施設となり、地上1階がエントランス、地上2階に待機室と診察室、スタッフステーション、地下1階に準備室、照射室、加速器サイクロトロンなどを配置している。3~5階は職員宿舎(個室60室)となっている。
サイト内検索