リチウムイオン2次電池(LiB)市場における独走態勢を固める韓国。ITやモバイル機器などに搭載される小型LiB市場に続いて、2015年には電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵装置(ESS)向けなど中大型LiB分野でもトップシェアの堅持が期待されている。
韓国2社の果敢な取り組み
小型2次電池市場における韓国勢のマーケットシェアは、当分の間、日中を圧倒する見通しだ。従来の長期供給先の確保に加えて、円筒型の小型電池などの新規市場を先行して獲得できたためだ。その背景には、サムスンSDIとLG化学の積極果敢な取り組みがある。
サムスンSDIは14年3月、サムスングループ企業の第一毛織を吸収・合併した。これによりサムスングループ傘下に年商10兆ウォン(約1兆870円)規模の大手素材・エネルギー専業メーカーが誕生した。今後、小型2次電池分野だけでなく、EVやESSなど中大型バッテリー分野およびバッテリー向けコア素材分野に対する競争力アップが期待されている。
同社はまた、14年8月、中国陝西省西安市高新産業開発区内でEV向け2次電池工場の起工式を行った。新規に建設される西安工場は、20年までに6億米ドルを段階的に投じ、15年10月にも本格稼働を目指しており、年間でEV 4万台強に2次電池を供給できる規模となる。さらに15年2月、カナダの自動車部品大手マグナ・インターナショナル社の子会社である豪マグナ・シュタイアーを買収。これを「車載用電池ビジネスの競争力を高めるためにカギとなる戦略的なステップ」(サムスンSDI社長)と位置づけ、車載用電池のパッケージ分野を強化している。さらに今後は、正極や負極、電解液、セパレーターなど電池のコア素材分野でも競争力アップを目指している。
一方のLG化学も、今後の成長分野の1つに電池事業を掲げている。17年には、売上高を14年実績の22.5兆ウォン(14年実績)から30兆ウォン強にし、化学素材で世界トップクラスに飛躍する目標を立てている。
なお、LG化学も中国に新工場を稼働させる。14年10月に江蘇省南京市でEV向け電池の工場建設をスタート。同工場は、EV向け電池年産10万台分の生産能力があり、15年末から電池のセルからモジュール、パッケージまでを一貫生産する計画だ。上海汽車やQOROSなど在中国の自動車メーカー向けに、2020年までに売り上げ計1兆ウォンを見込む。中国の南京工場が完成すると、韓国工場と米ミシガン州の工場と合わせ、EV向け電池工場の3大拠点ができ上がる。
中大型は49.5%で日本勢追い抜く
小型電池に続いて、EVとESS向けの中大型電池市場においても、韓国製の勢いはさらに強くなる見通しだ。これまで日本メーカーが先行していた初期EV市場において、14年は初めて韓国製がトップを奪うことが確実視されている。日本の電池専門調査機関「B3」によると、サムスンSDIとLG化学は、14年にEV向け中大型電池市場で49.5%のシェアを獲得し、日本勢(48.9%)を追い抜き、トップに浮上する(グラフ)。
韓国勢が好調な理由には、すでにEV向けで市場を獲得していたLG化学に加えて、同じくEV向けでサムスンSDIのEV向け成長が見込まれるためだ。14年のEV向け中大型電池市場で、LG化学は容量ベースで1688MWhを販売してシェア30%を記録し、1062MWを販売したサムスンSDIはシェア19%を達成する見通しだ。さらに、ESS向け中大型電池市場でも韓国製が競争力を発揮する見込みだ。EV向け電池に比べて供給量はばらつきがあるものの、グローバルESS市場の大型化、多様化に伴って、コスト競争力と技術応用力に優れた韓国製が先行して市場を獲得するといわれている。15年のグローバルESS・無停電電源装置(UPS)市場における韓国勢のシェアは50%強を占める見通しだ。
ESS分野もLGとサムスンが牽引
LG化学とサムスンSDIは15年、価格面でも激しく争うことになりそうだ。これは韓国政府による15年の「官民共同スマートグリッド普及事業」において、ESS向けバッテリーの価格が大幅に下がることと関連している。両社の価格競争によって、ESS市場が刺激されて大いに活性化すると期待されている。
韓国の産業通商資源部(日本の経済産業省)傘下のスマートグリッド事業団は、予算62億ウォン(約6億7000万円)を投じて、ESSとスマートメーター(AMI)向けの「スマートグリッド普及支援事業」を担う主管2社として、LG化学とサムスンSDIを選定した。中型・大型電池の価格が15%程度下がった枠で事業者が選定された。スマートグリッド事業団は、15年2月中に選定企業と最終契約を完了し、3月から韓国全土の産業施設などを対象に、普及事業に乗り出している。
韓国の中小企業も頭角現す
韓国勢の電池がグローバル市場を先取りしている背景には、サムスンSDIやLG化学などの大手企業はもちろん、中小企業によるニッチ市場の攻略も大きく作用している。大手企業の価格や生産競争力には及ばないものの、差別化した戦略で世界を駆け巡っている。
コカム(京畿道水原市)の場合、大手企業に引けを取らないほど、グローバルESS市場で高い実績を収めている。コカムは14年、欧米の電力会社とそれぞれ1MWh、2.3MWh級のESS向け電池の供給契約を締結し、14年にESS分野だけで200億ウォン(約22億円)の売り上げが予想されている。コカムがここ3年間、海外のESS市場に供給した電池容量は20MWhで、大手企業の実績に匹敵する規模だ。
また、まったく新しい市場を攻略する中小企業もある。トップ電池(京畿道利川市)は、台湾政府が定めた電動スクーターおよび電動自転車の充電インフラ構築事業者と電池の供給契約を結んでいる。同社の電池は14年に電動スクーターと電動自転車用の充電ステーション300カ所に設置された。今後は、毎年300カ所ずつ増やし、2020年まで台湾全土に3000カ所の充電ステーションを設置するプロジェクトで、成長が見込まれる。
サムスンSDIとLG化学の価格競争によって値下がりした電池の価格がESS市場の拡大にはポジティブに作用するものの、新規参入するのはさらに厳しくなりそうだ。
コア素材の国産化率アップが課題
韓国勢の2次電池が今後もグローバル市場でトップを堅持し続けるためには、コア素材や次世代電池の開発が急務と指摘されている。従来、韓国製電池は安定化した技術力と生産力などを強みに市場で先行してきたが、今後、電池業界の技術力が平準化すると、コア素材の技術こそが新しい競争力となりうる。
実際に、韓国電池業界が電池の主要4素材である正極、負極、電解液、セパレーターのなかで、存在感を発揮できているのは正極材だけだ。その他の素材の大半は輸入に依存している。特に、負極材の国産化率は8%にすぎないのが現状だ。電池の素材コストが全製造コストの50%強を占めるだけに、素材技術のレベルアップなしでは真の「電池大国」とは言えない。
電池素材に関しては日本企業からの調達も多いと見られる。14年、韓国の対日貿易赤字は215億米ドルだったが、そのうち42%がコア装置材料で、電池素材も含まれている。
韓国では、電池産業の核である素材技術が2~3年後の市場競争力を左右すると考えられており、韓国の関連企業をはじめ、産官学が協力してさらなる取り組みを進めていくことになるだろう。
電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢