市場の拡大が期待されているロボット分野。そのなかで最大の注目を集めているのが、ソフトバンク(株)(東京都港区東新橋1-9-1、Tel.03-6889-6666)が仏アルデバラン社と共同で開発した世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」だ。そのペッパーは今月(2015年2月)より一般発売を開始する。ロボット事業を担当するソフトバンクロボティクス(株)でペッパーの開発リーダーを務めるプロダクト本部PMO室の林要室長に話を伺った。
―― 貴社がロボット開発を始めたのは12年からと聞きました。
林 当社は12年から人型ロボット工学の世界的な先駆者であるアルデバラン社とともにペッパーの開発を開始し、14年6月に製品発表を行った。そして今月より一般発売を開始する。このスピード感はロボット開発としては異例ともいえる短期間だ。
これを実現できた理由の1つとして、開発テーマを「生活支援を目的としたロボット」ではなく、コミュニケーション機能を活用した「人を喜ばせ、人に寄り添うロボット」に設定したことで、従来の常識にとらわれない開発を進められたことが大きい。
―― 「人に寄り添う」部分を実現するうえで工夫されたことは。
林 もっとも重要なのが、むろん感情認識。しかしその他にも様々な工夫を施している。1つ例を挙げると顔がある。ペッパーのような人型ロボットの開発において、顔を人間に似せすぎてしまうと「不気味の谷」と呼ばれる現象を引き起こし、逆に嫌悪感を抱きやすくなってしまう。しかし、人間とかけ離れた見た目にしてしまうとコミュニケーションの質が落ちてしまい、「人に寄り添う」というコンセプトから外れてしまう。そのため適切なデザインを試行錯誤し、利用者に安心感を得てもらえるように目を大きくするなどの工夫を凝らした。また、会話の際にアイコンタクトをしっかり取るようにプログラムすることで、利用者がペッパーを人として認識できるようにしている。
―― 構成部品について。
林 ペッパー1台あたりの部品点数はオートバイ1台とほぼ同じレベルである。うち電子デバイスについては、頭部に搭載されているCPU、3Dセンサー、CMOSカメラ、マイクなど多種多様な製品を使用している。これら構成部品は汎用品を多く使用しコストダウンに努めているが、部品によってはモジュール化する際にどうしてもカスタム性の高いデバイスとなってしまう。特にモーターを搭載した関節部分のモジュールは高い安全性を確保するために、その傾向が顕著になる。そのため現状ではコストアップの要因となっているが、今後、量産効果が高まることでロボット用モジュールの汎用化も進んでいくとみている。
―― 電子デバイス関連での改良点は。
林 ペッパーには目や脚部に赤外線を用いたセンサーを搭載している。しかし、赤外線を用いたセンサーは直射日光に対して耐性が強くないことが課題だ。それを改善するため、高いロバスト性とコストパフォーマンスを持つ物体認識用センサーがあればと考えている。また、モーターについても小型かつ高出力で耐久性と制御性を兼ね備えたものを常に求めている。
―― 性能・仕様などをみると価格をかなり抑えた印象があります。
林 ペッパーの本体価格は19.8万円(税別)に設定している。正直に申し上げると、この価格は製造原価を割っているのが現状だ。しかし、ロボットという新たな市場を創出していくために、当社として思い切った価格に設定した。もちろん今後、設計の見直しや量産効果によるコストダウン策を講じていく考えで、生産を委託している鴻海精密工業にも当社の社員が出向き連携を深めている。
本体販売以外では月々定額のメンテナンスサービスをパッケージで販売することを考えている。また、ペッパーはスマートフォン(スマホ)のようにアプリケーションソフトを追加し機能を拡張することができる。その特徴を活かして本体とアプリ群をパッケージで販売するなど、ペッパー単体ではなく複合的な取り組みにより事業を確立していく考えだ。
―― そのアプリ関連での取り組みは。
林 当社で基本となるアプリの開発やプラットフォームの構築などは行っていく。しかし、ロボットの普及発展のためには様々なデベロッパー、クリエーターの存在が不可欠であり、当社では開発者向けに200台限定で先行販売を実施し、アプリ開発への参画を呼びかけるイベントを9月に開催した。ありがたいことに設定台数の10倍以上の申し込みがあり、期待と関心の高さを感じている。
―― 今後の抱負を。
林 冒頭にも述べたが、ペッパーの最大の特徴は「人に寄り添うことができるロボット」ということだ。そのコンセプトをさらに高い次元で実現していくためには、今後、利用者の健康状態をモニタリングする機能や、ペッパーが利用者の生活習慣の改善点を見出し、生活の質を向上させていくといったことなども考えられる。今月より受注を開始するペッパーであるが、既存部分の性能向上はもちろんのこと、前述のような機能を実現できる電子デバイスなど新しい技術があれば積極的に取り入れていく考えであり、今後もペッパーを進化させ続けていきたいと思う。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年2月5日号9面 掲載)