商業施設新聞
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第403回

JLL ホテルズ&ホスピタリティ事業部 エグゼクティブ ヴァイス プレジデント ヘッド オブ アドヴァイザリー 大橋蔵人氏


ホテルマーケット動向、回復はエリア、グレードで濃淡
外資系ホテルの開発は継続傾向

2023/10/24

JLL ホテルズ&ホスピタリティ事業部 エグゼクティブ ヴァイス プレジデント ヘッド オブ アドヴァイザリー 大橋蔵人氏
 2022年10月11日の水際対策緩和、23年5月8日の新型コロナウイルス5類感染症への移行などにより、国内の旅行需要が大きく回復してきている。中国からの団体旅行客も解禁され、さらなる国内ホテルマーケットの活性化が見込まれるが、直近では回復度合いに濃淡がみられるという。JLLホテルズ&ホスピタリティ事業部のエグゼクティブ ヴァイス プレジデントでヘッド オブ アドヴァイザリーの大橋蔵人氏に市場動向などを聞いた。

―― 最近のマーケット動向について。
 大橋 全体的な流れとしては、季節ごとの繁閑の差はあるものの、22年10月の水際対策緩和以降は回復傾向にある。特徴的なのは、エリアやグレードで動きが分かれていること。ラグジュアリーホテルはインバウンドが完全には戻っていないため、稼働率では19年を下回るものの、ADR(平均客室単価)が19年を超え、RevPAR(平均客室単価×稼働率)は19年を超えている。一方、リミテッドはまだADRが回復途上と見られる。
 東京はこれが顕著に出ており、ラグジュアリーホテルの1~7月の稼働率は19年比で約20%減となっているものの、ADRは同約40%増。RevPARも同約15%増となり、平均ADRは10万円を超えている状況だ。売り上げベースで見ると、19年の水準をすでに超えている。

―― 売り上げが伸びている要因をどのように見ていますか。
 大橋 やはりインバウンドが回復していることが大きい。また、もう一つ大きな要素として挙げられるのが為替の影響だ。例えばアメリカからインターネットで予約すると、ドルベースの価格を見ることになる。極端な円安の状況のため、日本円では10万円以上するものでも、ドルベースで見ると大きく値上がりしている感覚はない。特にラグジュアリーホテルは、外資系のオペレーターが大半を占めているため、日本円以外も考慮して値付けしている。そのため、日本円で見ると大きな売り上げの伸びにつながっているのだろう。

―― リミテッドは。
 大橋 リミテッドは、部屋の広さやサービス面から、値上げをするのにも限度がある。そのため、基本的には稼働率を上げていかないとビジネスとして成り立たない。大阪や福岡では稼働率は19年を下回るものの、ADRは19年を超えてきており、RevPARは19年とほぼ同じくらいにまで回復している。
 一方で、東京だけは少し異なった動きを見せており、稼働率は19年比で約10%減、ADRは同20%増と大きく伸び、結果的にRevPARは同約10%増となっている。リミテッドでここまで数字が上がっているのは東京だけだ。

―― インバウンドから注目の高い京都は。
 大橋 リミテッドに限って言うと、稼働率は19年比で約20%減、ADRも約5%強減少している。この結果、RevPARで見ると20%ほど19年を下回っている。理由を一つに絞るのは難しいが、やはり中国からの団体旅行客が復活していないことが大きいだろう。
 ただ、京都におけるラグジュアリー市場は東京以上の盛り上がりを見せており、ADRの平均も15万円以上となっている。京都には元々ラグジュアリーホテルが少ないため、多少強気の値段設定ができるのが大きい。京都のラグジュアリーホテルは、稼働率はほかの地域と同じく19年比で約10%減となっているが、ADRは同約30%増で、RevPARでは同約15%は上昇している。京都ではマーケットが二極化しているのが特徴だ。

―― インバウンドの動向について。
 大橋 コロナ前は、宿泊にあまり予算を割かない中国の団体旅行客が一定数存在しており、そういった需要が例えば京都のリミテッドの業績に大きく貢献していた。最近では中国からの団体旅行客も解禁となったが、社会情勢などで不安定な部分が依然存在するため、単純にすぐに元通りなるとは限らないだろう。
 しかしインバウンドの渡航解禁後、航空機の便数も徐々に回復してきており、今後も渡航者数のさらなる増加が見込める。中国の団体旅行客だけでなく、全体として徐々にインバウンド数が回復していき、どこかのタイミングで19年を超える水準に達することが予想できる。

―― 今後の開発状況の見通しなどは。
 大橋 最近では、外資系ホテルブランドへのリブランドなどもよく目にするが、一方でブランドを転換したからと言って必ずしも成功するとは限らない。東京のように、一定数インバウンドが見込める立地であればある程度の効果は見込めるが、そうではない場合はデベロッパー側の目利きが必要になってくる。ただ、外資系ホテルオペレーターは基本的にフィービジネスのため、出店していくことには抵抗はない。そのため、開発数は増えていく傾向にはあるだろう。
 立地としては、やはり東京や京都が一番手で、次点で大阪という風にはなるものの、東京では「すでに出店できるブランドがない」という声も耳にする。そのためオペレーターによっては、若干順位が変わることもある。リゾートで言うと、ニセコや沖縄、そして最近では箱根も増えてきている。オペレーターによるが、地方はリゾート色の強い立地がラグジュアリーホテルから注目を集めており、今後もさらに開発が進むと見られる。

(聞き手・編集長 高橋直也/新井谷千恵子記者)
商業施設新聞2517号(2023年10月17日)(7面)

サイト内検索