電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第37回

「水素社会」に一歩前進か?


水素の低コスト化に向けた取り組みが進む

2014/3/20

 「水素社会」は、古くから言われてきた言葉だが、ここ最近で頻繁に聞かれるようになった。その背景には家庭用燃料電池「エネファーム」の普及、燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle=FCV)の実用化、さらには、環境に優しい水素発電への期待がある。現在、FCV実用化に伴う本格的な商用水素ステーションの建設計画が進んでいるほか、水素の低コスト化に向けた水素輸送技術が各社から発表されている。水素インフラの動きを追ってみた。

進む水素ステーションの整備

 ポスト化石燃料の最有力候補「水素」。CO2排出増加による地球温暖化が危惧されているなか、環境に優しい次世代エネルギーとして注目を集めている。そのメリットは水というかたちで地球上に無尽蔵に存在するほか、副生水素、化石燃料改質、熱分解といった方法で容易に生成できる点だ。その水素エネルギーを最も活用していくのがFCVだ。トヨタが今年から製品化するほか、日産自動車、ホンダ、GMなど複数の自動車企業が15年以降に市場投入していく見込みだ。

 去る11年1月、経済産業省、自動車企業、エネルギー企業らは合同で会見し、15年からFCVの商用化を開始することをアナウンス。15年を「普及期」として商用水素ステーションを4大都市圏(首都圏、中京圏、関西圏、北部九州)で同年に100カ所、25年に1000カ所設置するとした。

 この目標に向けて、各自治体や企業で具体的な商用水素ステーションの建設が進められているほか、各種の規制緩和も行われている。例えば、JX日鉱日石エネルギー(株)(東京都千代田区)は、「海老名中央水素ステーション」(神奈川県海老名市、Dr.Drive海老名中央店内)と「神の倉水素ステーション」(名古屋市緑区、Dr.Drive神の倉店内)を稼働させている。いずれもガソリン・軽油用の計量機とFCV用の圧縮水素充填設備を併設し、かつダウンサイジング・省スペース化、ローコスト化を図ったパッケージ型だ。

課題は貯蔵と輸送

 一方で、水素は製造が容易であるものの、貯蔵・輸送といったハンドリングが難しいという課題がある。現在、製造された水素はパイプラインで輸送されるか、液化・圧縮化して専用キャリアーで輸送する方法が採られている。ただし、パイプライン輸送は場所が限られるほか、液化・圧縮化は小規模でかつコストが高い。また、圧縮化は炭素繊維製ボンベや爆発を防ぐ特別な設備が必要となる。

 こうしたなか、水素の新たな貯蔵・輸送技術が発表されている。その1つがガソリン主成分のトルエンに水素を固着させる有機ケミカルハイドライド技術だ。三菱化工建設(株)(横浜市西区)やJX日鉱日石エネルギーなどが実用化を目指している。例えば、三菱化工建設はトルエンと水素を化学反応させてメチルクロヘキサン(MCH)とすることで常温・常圧による貯蔵・輸送を可能にした。使用する時は独自の触媒技術によりMCHから脱水素化する。水素を取り出した後のトルエンは何度でも再利用できるとしている。

 また、液化・圧縮化に対するメリットは常温・常圧でかつ体積を1/500に小さくできる点だ。ガソリンと同等の第4種第1石油類に分類されるため、タンクローリー、石油タンク、ガソリンスタンドなど、既存のインフラが活用できる。これにより、大量かつ長距離の輸送を低コストで実現できる。同社は、同技術を「SPERA水素」とし、今後、事業の柱とする考え。現在、15年完成を目指して川崎市臨海部に水素供給インフラを構築しており、16年度から提供を開始する計画だ。

 また、川崎重工業(株)(東京都港区)は褐炭を原料とすることで、低コストで水素を製造・輸送する「CO2フリー水素チェーン構想」を進めている。具体的には、オーストラリアで産出される褐炭から現地で水素を製造および液化・積荷し、水素輸送船で日本に輸送するものだ。水素製造においてはCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)を活用することでCO2を回収・貯留するほか、水素の液化には安価な再生可能エネルギーを活用する。

 キーとなる褐炭は、埋蔵量が石炭と同程度で大量に存在するものの、水分量が50~60%と多く、また、乾燥すると自然発火しやすい。また、輸送が困難であるため現地の発電でしか利用されない。一方で、輸送が困難であるため取引は少なく、また、取引が少ないため比較的安価に利用できるという。

 同社は、これまで技術的成立性の検討および高精度の水素コスト算出に向けて商用チェーンのフィージビリティースタディー(FS)を実施。具体的には、メルボルンから150kmに位置するラトロブバレー褐炭採掘所の褐炭ガス化水素製造プラントで水素を製造し、水素パイプラインで水素を液化水素・積荷基地に送り、液体水素化および水素輸送船で輸送するものだ。

 同FSの結果、FCVにおいては現在のガソリン価格よりも経済性が見込まれるという。また、発電利用では化石燃料発電よりは高いものの、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーよりは安いとしている。

 同社は、17年からパイロットチェーン、25年から商用チェーンをそれぞれ開始し、30年から事業化する計画。用途としては、プロセス(半導体・太陽電池製造、石油精製・脱硫など)、輸送用機器(FCV、水素自動車、水素ステーションなど)、エネルギー機器(水素ガスエンジン、水素ガスタービン、燃料電池など)などを想定している。

半導体産業新聞 編集部 記者 東哲也

サイト内検索